「AI美空ひばり」どこまでがAIでどこまでが人なのか
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「AI美空ひばり」どこまでがAIでどこまでが人なのか
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画像は本イベントでも話題になった「AI美空ひばり」(ニュースリリースより)

東京大学 次世代知能科学研究センター 教授の松原仁氏、東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 教授の中島岳志氏、東京大学 未来ビジョン研究センター 特任講師の江間有沙氏(左から順に)

日本科学未来館は8月23日、オンラインイベント「AIを使って、亡くなった大切な人に会いたいですか?」をニコニコ生放送で開催した。本イベントは、故人の生前の言動を再現する技術の賛否について取り扱うもの。テーマがテーマだけに、メディアで大々的に報じられた「AI美空ひばり」に関する話題が多かった。

ゲストスピーカーは東京大学 未来ビジョン研究センター 特任講師の江間有沙氏、東京大学 次世代知能科学研究センター 教授で、AIを使って故手塚治虫氏の新作マンガを作り出すプロジェクト「TEZUKA 2020」に参加する松原仁氏、東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 教授で、政治学者として死者との関係性や倫理観の点から技術の危うさを指摘している中島岳志氏が務める。

今回は、故人の生前の言動を再現できる技術に関する基礎知識はもちろん、その賛否についてもレポートしていきたい。

「AI美空ひばり」を筆頭に違和感を持つ人も

近年、人工知能(AI)を使って、故人の生前の言動を再現する技術が進展している。しかし、「AI美空ひばり」を筆頭に、このような事例に違和感を抱く人も少なくない。

実際、当日のニコニコ動画の視聴者に「AIを使って、亡くなった大切な人に会いたいですか?」と聞くと、「会いたい(15.1%)」「どちらかといえば会いたい(15.1%)」は3割ほどで、過半数が「会いたくない(28.8%)」「どちらかといえば会いたくない(21.9%)」と回答しているほどだ。

「AI美空ひばり」のような有名人だけではない

まずは、故人の生前の言動を再現する技術について、基礎知識を確認していこう。過去や現在の事例にはどのようなものが存在するのだろうか。

江間有沙氏はこのような事例は、再現する対象が「公人(偉人・有名人)」であるか「私人(親族・知り合い)」であるかに加え、再現する内容が「知性や技能」であるか「しぐさや表情」であるかの4項目に分けられると説明している。

たとえば、手塚治虫氏の新作マンガを作り出す「TEZUKA 2020」や「AI美空ひばり」などは、「公人(偉人・有名人)」かつ「知性や技能」を再現した例として挙げられる。VRで娘と再会したり、AIで母親と再会したりといった事例は、「私人(親族・知り合い)」かつ「しぐさや表情」を再現した例に当てはめられる。

AIだけで優れた作品を作るのはまだまだ難しい

このような前置きを受け、松原仁氏はさらに具体的にAIによる芸術創作について言及した。現状では、AIが人間の力を頼らずに、優れた作品を作るのはまだまだ難しいという。

具体的には、AIの関与は手塚治虫氏の「TEZUKA 2020」のような漫画が1割ほど、星新一氏のショートショートを再現した「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」は2割ほど。小林一茶氏や高浜虚子氏などの作品をもとに新作を作り出すAI俳句「一茶くん」のような、俳句は良い俳句を選ぶ「選句」以外はAIのみでもほぼ可能と解説する。

また、人間の振る舞いそのものをまねることに関しては、上記のように説明している。特定の人の声を機械学習させ、任意の文章を読み上げる際に、その人の声をまねさせることはかなりできるという。一方で、特定の人の話を機械学習し、その人が言いそうなことを言わせるのは、その人のバックグラウンドを再現する必要があるため、非常に難しいとのこと。

ストーリーが見えなくなると不気味に感じる

東京大学 未来ビジョン研究センター 特任講師の江間有沙氏

次は、故人の生前の言動を再現できる技術に対する賛否について、それぞれに意見を確認していこう。

江間有沙氏は、故人をAIで再現したものを公開する場合、あくまで利用目的の設定や評価は人が手がけていることをわかるようにすべきと主張している。

その理由を「AIで故人をよみがえらせるときに、間の人がいろいろ入っているところや、何のために再現しているのかというところがすっぽり抜けてしまって、ストーリーが見えなくなってしまうと、いったい何のために再現しているのかわからなくなってしまいます」と説明する。

また、「どこまでがAIで、どこまでが人か。ひょっとしたら、故人の形を借りて誰かほかの人が言わせたり、人を操作したりしているのではないか、という疑念も生まれます。このようなところが不気味というか、もやもやする1つの要因になっているのでないか」と話した。

「AI美空ひばり」はなぜ叩かれたのか

東京大学 次世代知能科学研究センター 教授の松原仁氏

松原仁氏は、さらに具体的に「AI美空ひばり」が批判された理由について、「『AI美空ひばり』はすごく作り込んでおり、クオリティを上げるために、間に入っている人がすごく頑張っています。正直に言うと、星新一氏の『きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ』や手塚治虫氏の『TEZUKA 2020』のような作品は、まだ本人のクオリティにまったく達していません。だから、ファンから見て、怒る対象になっていないのではないか。もっと似ないと怒ってもくれないのではないかと思います」と考察する。

さらに、「少し分野は違いますが、『AI美空ひばり』は(ロボットなどの見た目が人間に近づいていくと親近感が増すものの、ある限度を超えると嫌悪感を持つとされる)『不気味の谷』みたいなところに達したため、あれほど否定的な反応があったのではないか」と付け加えている。

「『AI美空ひばり』は体の半分が冷え込んだ」

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 教授の中島岳志氏

中島岳志氏は過去に原稿を書いている際に、亡くなった友人のまなざしを感じた自身の経験を踏まえ、AIによる故人の再現する技術を利用することで、死者が我々のコントロールできない形でたち現れてくる「死者のままならなさ」が損なわれると話す。

政治学者としての立場から、「死者の声の所有は、政治ではとくに大きな問題になると思います。たとえば、『先の戦争で亡くなった人たちの英霊はこう言っていた』といった利用もされる可能性があるからです。亡くなった人たちの声を一元的に所有し、自分たちの政治的な主張のバックアップに使うのが、死者の利用としてはもっともやってはならないことだと思います」と主張した。

『NHKスペシャル』で「AI美空ひばり」が新曲『あこがれ』を披露したことを例に挙げ、「曲の歌詞だけではなく、このような台詞も入っています。『あなたのことをずっと見ていました。頑張りましたね。さあ、私の分まで まだまだ頑張って』。私は『NHKスペシャル』でこの映像を見ましたが、ファンの方がぼろぼろ涙を流していました。その光景を見たときに、体の半分では感動しながらも、体の半分は冷え込みました。たとえば、(自称)イスラム国の指導者などがこのようなクオリティで作ると、どのようなことが起こるのか」と疑問を呈した。

「生者か死者かは技術的には変わりない」

松原仁氏はこのような指摘にうなずきながらも、「AIは死者をよみがえられることに特化した技術ではありません。一部、すでに悪用されているという意味では、ファイクニュースが挙げられます。たとえば、生きている政治家が本人が言ってもいないようなことを本人の声でしゃべっているYouTubeの動画がたくさんあります。生者であることと、死者であることは、実は技術的にはあまり変わりません」と訴えている。

本やテレビなど新しいメディアが登場した際に、当初は多くの人類が抵抗感を持っていたものの、少しずつ慣れていったという過去の歴史を踏まえ、「(『AI美空ひばり』などの技術には)『プラスの側面』と『マイナスの側面』があるということと、新しいメディアなので、距離感がわからないということが微妙に絡まって、今のもやもとした感じになっているのではないか」とまとめた。
引用先はこちら:「AI美空ひばり」どこまでがAIでどこまでが人なのか

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