中国政府による香港への国安法適用に対するテクノロジー企業たちのそれぞれの対応
AI.
中国ラウンドアップでは中国のテクノロジー関連ニュースと世界への影響を紹介してきたが、今回は中国政府が香港に国家安全法を適用するという事態が香港の人々の生活とジネスに与えている影響を紹介する。
国家安全法の香港への適用はシリコンバレーのテクノロジー企業にとって中国に対する態度を決めるリトマス試験紙のような役割を果たしている。Google(グーグル)、Facebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)、Telegram、Zoom、Redditを含め多数の企業が明確に態度を表明した。
抗議、遵守、離脱
中国政府が7月1日に香港に国家安全法を施行したのは、香港に対する統制を大きく強化するためだった。国安法の条項にはすでに私が書いたように(未訳記事)、インターネット接続プロバイダーに情報を削除しあるいは警察に情報を提供することを直接要求するものが含まれている。 これに対して米国、中国の主要テクノロジー企業の態度は以下のとおりだ。
Facebook:国安法の条項をさらに検討する間、香港当局からの情報提供の要求に応じることを停止したことを確認した。この検討には「人権に関する正規のデューデリジェンス及び人権専門家との協議が含まれる」という。広報担当者は「表現の自由は基本的な人権であり、人々が身の安全その他の有害な影響を恐れることなく表現を行う権利をフェイスブックは支持する」と述べた。
データ引渡しの停止はフェイスブック本体に加えてグループ企業のWhatsAppにも及ぶ。
Twitter:国安法施行と同時に香港当局の要求の応じてユーザーデータを転送することを停止したと述べた。 同社では「特にこの法律の一部は意味があいまいで明確な定義がなされていないため」だとしている。また「この法の適用決定の過程とその意図に関して重大な懸念がある」と述べている。
Google:香港当局からのデータ要求の処理を一時停止したと述べた。またユーザー作成コンテンツをサービスから削除することを求める政府の要求に対しては引き続き個別に検討すると付け加えた。
Zoom:香港当局のデータ引渡し要求に応じることを停止したと発表。「Zoomは自由でオープンな思想、意見の交換を支持する。我々は米国政府が今後発する可能性があるガイドラインを含め、香港の特別行政区(SAR)としての現状を注意深くモニターしている。Zoomは香港の特別行政区からの、またこれに関連するデータ引渡要求の処理を一時停止した」と述べている。
LinkedIn:Microsoft(マイクロソフト)が所有する同社は、中国本土に中国法に従う法人を運営しているが「現地当局のデータ引渡要求について、新法の内容の検討を終えるまで一時停止した」と発表。
Telegram:メッセージアプリであるテレグラムの広報担当者は「香港のユーザーに関連する当局からのデータ要求は、香港の政治的地位の改変に関して国際的なコンセンサスが得られるまで一切処理しない」と述べた。また過去にも香港当局にいかなるデータも開示したことはないとしている。
Signal:データ暗号化でテレグラムと競争しているシグナルは「我々も(Telegramと同様に)データ引渡しを停止したといいたいところだが、そもそも我々は香港警察にデータを引渡したことがない。また、そもそも我々は引き渡すべきユーザーデータを保持していない」と皮肉を込めて述べている。
TikTok:中国企業によって運営されている同社はジレンマに陥っている。中国企業である以上、中国当局の要求を無視することはできない。一方で同社が中国の巨大な検閲システムの一環をなすという主張にさらに根拠を与えたくない。当初、他の外国企業同様、データ引渡要求を拒否する姿勢を見せたものの、これは北京の指示に反する姿勢となる。同社は香港におけるショートビデオサービスを中止し撤退した。香港はTikTokのビジネスのごく小さい部分を占めるだけなのでこの決定は容易なものだったはずだ。運営会社のByteDanceがTikTokの検閲済みバージョンであるDouyin(抖音)を導入するか、人口700万の香港を完全に見捨てるかは不明だ。
Apple:中国本土で大規模なビジネスを展開しており、政府との親密な関係についても長年にわたって批判されてきたApple(アップル)は、2019年に香港で民主主義を支持する抗議活動が行われている場所を示すアプリを削除した。
国安法の導入に伴ってアップルは「新法について詳細を評価中だ。ユーザー生成コンテンツについて香港当局から直接(引渡)要求を受けていない」とした。同時に米国と香港の法律共助協定に基づき企業は(香港当局に)協力の義務があると述べた。
【Japan編集部追記:トランプ大統領は7月15日に香港への各種優遇措置を撤廃する大統領令に署名している】
Reddit: 大手中国テクノロジー企業のTencentが出資している(未訳記事)ものの、「ユーザーデータの取り扱いに関する方針は株主とは別だとして、「ユーザーのプライバシーはRedditが本質的に重視している価値だ。我々は香港当局からユーザー情報引渡の要求を受けていない。しかし当社の方針としてRedditは基本的人権を損なうおそれがある場合、政府からの要求に従わない。この方針は新法の適用によっても変わるものではない。ユーザー情報を守るというRedditの方針は我が社に対する投資家によっていささかも影響されない。(影響を受けるとする)示唆はすべて誤りだ」と発表した。
上のリストはいかなる意味でも網羅的なものではないし、国安法の内容、適用の詳細に関してもまだ充分な説明されていない。TechCrunchは他のテクノロジー企業の動向にも注意を払い、報道を続ける。
関連記事:The tech industry comes to grips with Hong Kong’s national security law(未訳記事)
中国外務省のZhao Lijian(趙立堅)副報道局長は香港の警察当局へのデータ引渡の停止について次のような声明を発表し、懸念に理由がないと主張した。
1982年に香港が祖国に返還されたときMargaret Thatcher(マーガレット・サッチャー)首相と会見したDeng Xiaoping(鄧小平)が次のように述べたことを想起される。「競馬は続く。株式も盛んに取引される。ダンサーはダンスを続ける。法律が定めるとおり、一国二制度は確固たる基盤に上にあり、さらに強化されると我々は強く信じる。香港の住民の基本的な利益と繁栄は適切に保護され、社会の安定と調和がいっそう確実なものになる。馬はさらに速く速く走り、株価はさらに上昇し、ダンサーの踊りはさらに魅力的になる」。我々は香港の将来に確たる自信がある。
さらに世界では……
- 米国政府はTikTokの禁止を検討している。TikTokが中国政府の強い影響下にあり、監視とプロパガンダのツールとして利用されている懸念が理由として挙げられている。
- 世界の半導体製造産業の覇権の獲得を目指して、中国企業は2020年にはいって2019年の投資総額以上の資金調達を行っている(Nikkei Asian Review記事)。
- イギリス政府はHuawei(ファーウェイ)の機器を5Gから排除すると政策を転換した(The Telegraph記事)。これはセキュリティ上の懸念によるもので年内にも正式に決定されるもようだ。.これにより従来の「厳密な監視を続けた上で」ファーウェイ機器を5Gネットワークに採用する(未訳記事)とした方針は破棄された。
- Weibo(微博)は閉鎖的エコシステムに転換。中国最大のツイッター的なマイクロブログは「今後は承認ずみリンクのみ受け付ける」 発表した(Weiboリリース)。つまりホワイトリストを用意し、そのリストにあるコンテンツへのリンクのみ表示可能になる。同社ではこの措置は「賭博その他の違法なサイトを追放してユーザーの安全を図るため」と説明している。しかしユーザーはインターネットに「壁で囲まれた領域」を作る方向への「滑りやすい坂」だと懸念している。Weiboは4種類の短縮リンクのみ受け付けることになる。これに含まれるのは政府諸機関の公式サイト、メディア、通信社のポータル、微博が予め審査して承認した企業サイトなどだ。
関連記事:フェイスブックとツイッターが香港当局へのユーザーデータ提供を一時停止、中国による国家安全法制定を受け
カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)
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