ロックバンドWeezerのフロントマンはコンピュータサイエンスの学生として二足の草鞋を履く
AI.
「やあ、僕がWeezer(ウィーザー)のリバースです」と、Rivers Cuomo(リバース・クオモ)氏は微笑みながら手を振った。ときおりカメラから目をそらしながら、彼は精一杯のインフォマーシャルピッチを始めた。「ツアーに参加していて、楽屋やツアーバスに座っていると想像してみてください。そして舞台裏にいます。あなたはステージ恐怖症で、ストレスでいっぱいです。あちらこちらに歩き回っています。その状況に加えて、ツアーマネージャーが何度も声をかけてきて、さまざまな移動に関する質問をしてきます」。
インターネットピッチ動画を見る限り、それは普遍的なものとはいえない。どちらかといえば、この3分間のクリップは、見ている人を最後まで惹きつける魅力には欠けている。最後に近い場面では、クオモ氏はマルーンのSpaceXパーカーを着て、プライベートジェットへのタラップを昇っていく。飛行機のドアが閉じると、Weezerのフライングロゴ「W」が現れる。
「GitHubからDrivetimes(ドライブタイムス)を今すぐダウンロードしよう」と、クオモ氏はナレーションで付け加えている。「これはCS50Xの成果です」。
これは最高に洗練されたアプリ宣伝ビデオではないし、クオモ氏のセールストークは、ベンチャーキャピタルにシードラウンドを申し込むつもりならもう少し洗練させた方が良いだろう。しかしオンラインプログラミングコースの最終プロジェクトとしては、それは見るべきものに仕上がっている。コードのページ、Google(グーグル)のスプレッドシート、主観ショットなどに交互に挟まれた映像は、Pixies(ピクシーズ)との共同ツアーの最中にクオモ氏が撮影したものだ。
この結果、クオモ氏はコースで95点を獲得した。
現在の構成では、ツアースケジューリングツールDrivetimeの魅力は限られているものの、クオモ氏の最終プロジェクトであるハーバード大学のフォローアップコースCS50Wの成果物は、四半世紀以上のキャリアを追う彼のファンたちにすぐに明かされた。今週クオモ氏は合計86時間以上に及ぶ2400個以上のデモ音源を投入した。1976年から2015年にかけてのもので、曲の品質はテープ録音されたスケッチから洗練された形態までさまざまなものが含まれている。それらの曲は、最終的にWeezerの13枚のアルバムの中に収録されたものもあれば、サイドプロジェクトに取り込まれたものもある。どこにも使われなかったものもある。
クオモ氏の「Mr. Rivers’ Neighborhood」サイトを通じて入手可能になっているが、トラックは9つのバンドルにまとめられ、それぞれ9ドル(約940円)で入手することができる。「ところで」とクオモ氏は、免責事項の一番下に書く。「このマーケットは、僕がウェブプログラミングのために履修しているコースの最終プロジェクトの成果物です」。
プラチナセールスを記録するロックスターは、実は5年にわたって、コンピュータープログラミングの学生としての日々も過ごしていたのだ。
「僕はいつでもスプレッドシート使いでした」と、クオモ氏はTechCrunchに語る。「2000年頃、Microsoft Access(マイクロソフト・アクセス)から始めて、次にExcel(エクセル)に移ったと思います。自分の曲やデモやアイデアを、とにかくすべて追跡するためです。スプレッドシートはますます複雑になり、その結果『まあこれじゃ、数式の中にとても扱いにくいコードを書いているようなものだな。おそらくきちんとプログラミングをやるべきなのだろう』と考えるようになりました」。
現実世界で成功したミュージシャンとしては、それは奇妙な副業だろう。しかし、クオモ氏にとっては、それは次の論理的なステップなのだ。Weezerの同名デビューアルバムの大成功を受け、彼はハーバード大学の2年生として入学し、1年間を寮で過ごした。結局このときには、クオモ氏はバンドの人気作となったアルバム「Pinkerton」を録音するために学校を去ることになったが、1997年と2004年に2度再入学を行い、2006年には英語の学士号を取得して最終的に卒業した。
CS50(コンピューターサイエンス履修コース50)でクオモ氏は、ハーバード大に戻ることとなった —— 少なくとも気持ちの上では。このコースは大学がオンラインで主催し、無料でコンピュータサイエンス入門を行うものだ。
「僕はいくつかのオンラインコースを見て回って、魅力的に感じられるものを探していました。そしてハーバードのCS50が非常に人気が高いことを知りました」とクオモ氏は語る。「そのときは『まあ一丁試してみるか』といった感じで、すぐにとりかかったわけではありませんでした。最初の週のコースはScratch(スクラッチ)を使用していました。ご存知かどうかはわからないけれど、それはクリックアンドドラッグで行うプログラミングで、ちょっとしたビデオゲームを作ることができます」。
6週間のコースを彼は6カ月かかって修了した。同じ年、2人の子供の父親でもあるミュージシャンは、何十ものショーで演奏し、グラミー賞にノミネートされたWeezerの10枚目のアルバム「White Album」を録音した 。
クオモ氏はいう「コースの途中でPython(バイソン)に出会ったときには、その強力さに驚きました。僕にとってそれはとても直観的だったのです。おかげでたくさんのことを行うことができました。そしてコースが終わるまで、旅を続けるミュージシャンとしての日々の生活を本当に管理し、自分のスプレッドシートを管理し、クリエイティブ・アーティストとしての仕事の管理にも役立つプログラムを書き続けていたのです」。
クオモ氏にとって、生産性が大きな問題だったことはない。バンドは2020年に「Black Alibum」の後2枚のアルバムを完成させていたし、彼はすでに別の2枚の仕事にも取りかかっていた。より大きな問題に思えたのは、そうした考えを整理することだった。だからスプレッドシートとデータベースの出番があったのだ。
「数千」ものスプレッドシートがやがてデータベースとなり、クオモ氏自身のデモや彼が研究した他のアーティストたちの作品がカタログ化された。
「何年もの間、それは時間の無駄もしくは道楽のように思えていました」と彼はいう。「僕はそうした古いアイデアをただカタログ化するのではなく、新しい曲を書いたり、曲のレコーディングを行うべきだったのです。でも何年も経った後でようやく、僕はこうした古いアイデアをとても効率的に活用できることに気がつきました。なにしろ自分で書いたPythonプログラムに対して『おい、126BPMでキーはAフラットの曲を全部見せてくれ。ただし3度のスケールとメロディでスタートしてドリアンモード、そしてマネージャーが3つ星以上のスコアをくれたやつだ』と命令できるのですからね」。
彼は、このやり方はファンが望んでいるであろうロックンロールのロマン主義に、ある意味欠けていることを認めている。しかしクオモ氏は、分析的なページ上で創作をしていたとしても、まだそこには魔法が残されていると主張する。
クオモ氏にとって、生産性が大きな問題だったことはない。彼の生産性のレベルを考えると、むしろそれらの思考のすべてを整理することの方が難しい可能性が高い。だからスプレッドシートとデータベースが必要となったのだ。
「私たちが伝統的に人間の創造性だと考えているものの中には、自発性とインスピレーションの余地がまだたくさんあります」とクオモ氏は説明する。「この領域における僕のヒーローの1人が、Igor Stravinsky(イーゴリ・ストラヴィンスキー)です。『音楽の詩学』という彼の講義録があります。そして、彼はその講義録にメモを添えています。彼は自分の能力の1つしか使っていない作曲家には興味がないといっています、それは『クリエイティブゾーンにいるとき、自分の頭に自発的に飛び込んでくるものを書くだけです。それ以外のツールは何も使いません』というような作曲家のことです」。
「彼がいっているのは、『いや、私が聴きたいのは、自由に使える能力や、すべての直観を使いながら、同時に自分の持っているものすべてを分析し分類し活用する、知性と能力を駆使する作曲家の音楽なのです』ということです。僕はそうすることが、最もワイルドで予測不可能でクリエイティブな作品になることがわかったのです」。
そして作曲数そのものが不足することはなかった。クオモ氏は、バンドは今年の「Black Album」に加えて2枚のアルバムを完成させて、さらに個人的にさらに2枚のアルバムに着手していたという。18ヶ月のメジャーレーベルのアルバムリリースサイクルに何十年もの時間を詰め込んで、Demosプロジェクトを手掛けたあと、彼はファンに直接音楽をリリースするための、より多くの方法を見つけることに新たな関心を持つようになったという。
「自分としては、大きなマーケットを本当に理解していたり、世界に最大の影響を与える方法を知っていたりしているとはとても思えませんね」と彼はいう。「僕のマネージャーはそれが得意ですが、彼に対してこんなことを話したばかりです『なあ、ここに何かを感じるよな。なんといっても、本当に楽しいし、ファンも本当に喜んでくれている。みんなも気軽に参加してくれるしね』。コーディングは簡単ではありませんが、みなさんには、数クリックをするだけで、この音楽すべてを手にしてもらうことができます。値段も安いし、中間業者もいません。PayPalは多少手数料がかかりますが、メジャーレーベルほどではないですしね。だから、これは『何か』なのです。そして、僕から聞き手に直接伝えることができるのは、本当に素晴らしい何かなのです」。
いまのところ、コンピュータサイエンスは彼の時間の多くを占め続けている。クオモ氏自身は、働いている時間の約70%をプログラミングプロジェクトに費やしていると見積もっている。水曜日の夜には、彼は(数十年にわたる情熱を注いている)瞑想サイトのためのプログラミングを手伝い、さらにハーバード大学のフォローアップコースのCS50Mを受講する予定だ。このコースはモバイルアプリの開発を中心にしたものだ。
とはいえ、すぐに自分の本業を辞める予定はない。
「スタートアップとかに就職したり、誰かのウェブサイトの保守をすることは想像もできませんね」と彼はいう。「とはいえ、ロックスターとウェブ開発者の間の線が徐々にぼやけてきているので、ミュージシャンたちが技術ツールをますます活用できるようになるでしょう。音楽ソフトだけでなく、聞き手とのつながりをコードする中で現れる、配信や組織や創造性の手段をどんどん活用していきたいと思っています」。
カテゴリー:その他
タグ:Weezer
画像クレジット:TechCrunch
[原文へ]
(翻訳:sako)
引用先はこちら:ロックバンドWeezerのフロントマンはコンピュータサイエンスの学生として二足の草鞋を履く