音楽は2020年を良いものにしてくれたが、私たちはミュージシャンを幸せにしていない
AI.
音楽が命綱だった年に、恩返しをしよう。
「Are you okay?」(大丈夫ですか?)
その問いかけに、私は良い答えを持ち合わせていない。私がアルゴリズムの問いかけに対して答えようとしていること(Puddingサイト)は承知しているし、違うバンドに入れ替えて誰に対しても同じ質問をしていることも知っているが、その質問の重みが和らぐことはない。私が?私たちが?誰もが?
実際にここで尋ねられているのは、Waxahatchee(ワクサハッチー)のことだ。今年はワクサハッチーをたくさん聴いた。ワクサハッチーは良い。ワクサハッチープロジェクトのアルバム「Saint Cloud」(セイント・クラウドは、今年私が一番気に入ったアルバムの1つだ。私にとって、(ワクサハッチーの)Katie Crutchfield(ケイティ・クラッチフィールド)氏の音楽は、エリオット・スミス氏やレナード・コーエン氏の音楽の中には見出すことができないものだ。まあこの記事で私のSpotify(スポティファイ)ソーシャルフィード上の好みのバンドを紹介しようというわけではない。
今週のSpotifyの熱いAIの動きは、音楽ファンにとって面白いものとなっている。それはまた、より大きな真実をあぶり出しているかもしれない。Spotifyが毎年恒例の「今年のまとめ」を繰り出してくる中で、少なくとも私たちは今年の過ごし方に思いを馳せたはずだ。
この史上最悪の年にふさわしいサントラは何だろう?世界が燃えているときに、私たちは何を聞くのか?2009年に、CNNの元インターンが偶然アーカイブのビデオテープを見つけた。そのタイトルは「ターナー・ドゥームズデイ・ビデオ」(ターナー最後の審判ビデオ)というものだ。(JALOPNIKサイト)この1分間のビデオには、沈没したタイタニック号で最後に演奏されとされる「Nearer My God To Thee」(主よ御許に近づかん)を演奏する楽団が登場する。そのビデオには「世界の終わりが明らかになるまで公開しないこと」と明記されていた。
土壇場でのサプライズがない限り、2020年は完全な黙示録からはほど遠い状況で終えることができそうだ(おそらく)。しかし私にとって、Spotifyの年間まとめはこの大変な一年を証言するものだ。それはちょうどパンデミックがニューヨークのクイーンのわたしの家を襲撃して、3月の後半から4月にかけて私のApple Watchのエクササイズ記録がゼロとなり、自分自身の健康問題に対処していたことと同じだ。
これまでの12カ月の私の聴き方の習慣がまとめ上げられた内容が、音楽との付き合いも不可能になるのではと思わせた長い時間の証言として、機械から流れ出てくる。歌詞を聞き咀嚼することに疲れを感じるようになったとき、アンビエント音楽とポストロックが再び私を捉えていた。そして、いくつかのお気に入りのトラックを、取り憑かれたように繰り返し聴き続けたことがあるのは、私だけではないと確信している。
こうやって振り返ることは、多くの人にとって過去最悪になったこの一年の中で、聴いた音楽が果たした役割を思い出すのに役立つ。2020年は音楽が私の命を救ってくれたと言ったら言い過ぎだが、あまりにも多かった感情面への打撃の一部を確実に和らげてくれた。
神経学者だった故オリバー・サックス氏は「音楽は、憂鬱から救い出したり、涙を流させたりすることができます。それは治療であり、強壮剤であり、耳のためのオレンジジュースなのです」と書いている。「しかし、私が担当した神経症患者の多くにとって、音楽とはそれ以上のものなのです。それは、たとえ他の治療が効果がないときにさえ、動きや、発話や、生活そのものに影響を及ぼすことができるのです。彼らにとって音楽は贅沢品ではなく必需品なのです」。
ルイ・アームストロング氏の言い方はさらに簡潔だ「音楽は人生そのものさ」。
残酷な皮肉は、音楽が多くの人にとって重要な意味を持つこの年に、ほとんどのミュージシャンが生活費を稼ぐのに苦労しているということだ。もちろん今年苦労しているのは音楽の分野だけではないが、ストリーミング収入がミュージシャンのレコード売上に比べてわずかなものに過ぎず、大物を除けばツアーが最も重要な収入源となっている時代には、彼らの苦境は顕著だ。この10ヶ月間、それらはすべて干上がっていた。
「パンデミックはライブ・ミュージック業界を完全に崩壊させました」とWilco(ウィルコ)のフロントマンであるJeff Tweedy(ジェフ・トゥイーディ)氏は最近のインタビューで述べている(ウォール・ストリート・ジャーナル記事)。「この1年はまったく収入がない状態が続いています」。
5月に行われた音楽家ユニオンの調査(NME記事)によれば、ミュージシャンの19%が新型コロナウィルスの影響でキャリアを諦めることになるかもしれないと答えている。それから7カ月が経った今、その数字はおそらく楽観的だったのではないかと考えられている。
トゥイーディ氏は付け加える「演奏できる場所はみつかるでしょう。しかし見える風景は全く異なるものになる筈です。多くの小さなビジネスやレストランと同じように、気軽に寛げる音楽会場の多くがなくなるのではないかと想像しています」。
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音楽配信のBandcamp(バンドキャンプ)は多くの人にとっての道標となっている。同サービスの、手数料を免除した「Bandcamp Fridays」(バンドキャンプ・フライディズ)は、現時点までに4000万ドル(約41億4000万円)の売上を達成している。同サイトは、少なくとも来年5月までは同機能の提供を継続することを約束している。
今年の苦境は、ストリーミングの印税をめぐる懸念を浮き彫りにすることになった。Spotifyがこの話題の焦点となっているのは当然のことだが、一方で同社はポッドキャスト番組を強化するためにこれまで数億ドル(数百億円)を費やしてきた。7月にCEOのDaniel Ek(ダニエル・エク)氏は「過去に成功していても、将来的にはうまくいかないアーティストもいるかもしれません。3~4年に一度レコーディングを行えば十分という時代ではありませんから」と、彼にとって何の得にもならない発言をした。
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Justice at Spotify(ジャスティス・アット・スポティファイ、Spotifyに公正な収入分配を求める運動)の代表であるDamon Kurkowski(デイモン・クルコウスキー)氏は、10月に以下のように私に語った「業界の特定の一部からの反応は、私たちの予想通り冷たいものでした。要するに『君たちは単なるミュージシャンで商売のことがわかっちゃいない』ということです。それに対して私が言いたいのは『私たちが注意を呼びかけている問題は、まさにミュージシャンがそうした会話から取り残されている』ということなのです。ストリーミングビジネスは私たちの仕事の上に成り立っているのにもかかわらず、支払いと相談が来るのはいつでも最後になっているのです」。
音楽で生き抜くための苦労は、もちろん目新しい話ではない。ジャズの天才セロニアス・モンクには、パノニカ・ドゥ・コーニグズウォーター男爵夫人(Baroness Pannonica de Koenigswarter)というパトロンがいたことは良く知られている。しかし、これまでミュージシャンたちを助けられなかったからといって、この先上手くやれないわけでも、上手くやらなくて良いわけでもない。
私は大丈夫だろうか?まだよくわからないが、音楽を聴くことは役に立ちそうだ。
カテゴリー:ネットサービス
タグ:Spotify、Bandcamp
画像クレジット:Jon Feingersh Photography Inc / Getty Images
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(翻訳:sako)
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