レントゲンに代わる低コスト小型スキャナー開発のNanoxが約62億円調達、5G利用で救急車搭載も夢ではない
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イスラエルのスタートアップNanox(ナノックス)はスキャン装置のサイズとコストを抑えるハードウェア、そして画像の質と画像から得られる洞察を高めるソフトウェアでもって、医療画像と画像分析の世界を席巻しようという野心を持っている。7月28日、同社はその計画さらに前に進めるための大きなステップを発表した。5900万ドル(約62億円)を新たに調達し、これによりシリーズBを1億1000万ドル(約115億円)でクローズした。新たな資金をもとに、体全体をスキャンするハードウェアの開発を継続し、顧客をさらに開拓する。同社はすでに13カ国で契約を獲得している。
今回の資金はSK Telecom(SKテレコム)やカナダの保険グループIndustrial Alliance、Foxconn(フォクスコン)、Yozma Korea(ヨズマコリア)といった戦略的投資家が拠出した。シリーズBではこれまで2回にわたって5100万ドル(約54億円)調達された。最新のものは6月の2000万ドル(約21億円)で、戦略的投資家SK Telecom(SKテレコム)が出資した。同社はNanoxのハードウェアを韓国で製造するための工場を建設中だ。実は日本にも工場がある。
Nanoxはバリュエーションを明らかにしていないが、6月時点では6億ドル(約630億円)だった。そしてTechCrunchが把握しているところでは、今回が上場前の最後の調達となりそうだ。ただ、上場のタイムラインはまだ設定されていない。もちろん、スタートアップの資金調達の世界ではこうしたタイムラインは決して明らかにされることはない。
Nanoxの創業者でCEOのRan Poliakine(ラン・ポリアキン)氏は7月28日のインタビューの中で、同社の売上の大半はライセンス取引で上げていると述べた。FoxconnやSK、富士フイルムなどのメーカーがNanoxのコンセプトに基づくデバイスを製造するのにIPを提供する。計画では今後7年間でスキャナー1万5000台を製造する。
長期的には、Nanoxはサービスの提供を開始するために、同社のマシンが設置される全マーケットで現地当局の承認を得る。サービスは、ハードウェアから得られた画像に洞察を提供するというものだ。承認取得のための作業は進められているが、新型コロナウイルスの影響で遅延している。実際の承認取得などその後の多くのプロセスもずれ込むことになる。
Nanoxの事業はサービスという点において特に興味深い。というのも、医療サービスが現在、そして将来どのように提供されるかというところで大胆なシフトを強調するものだからだ。
よりパワフルなコミュニケーションネットワークや改良された画像テクノロジー、かなりの人件費、そして施設を最新の状態に保つための高額のメンテナンス費用の影響で、病院などの施設は分析業務をオンサイトラボからリモート施設にアウトソースするようになった。これにより、新たなチャンスに入りこもうとする事業が数多く生まれることになった。
「通信会社は5Gの販売方法をめぐり、機会を模索している」とSK Telecomの会長Ilung Kim(イルウン・キム)氏は6月のインタビューで述べた。「そしていま、5Gデータを使いながら救急車の中で使用できるほどのサイズのスキャナーが期待できる。業界にとってゲームチェンジャーだ」。
Nanoxは当局の承認を待っているが、すでにこのサービスで契約を結んでいて、つまりマーケットの需要があることを示している。直近では、USA Radiology(USAラジオロジー)と契約を結んだ。この契約では、全米とその他15カ国でのスキャン・アズ・ア・サービス事業でNanoxのテックを使う。
もちろんNanoxはそうした契約では2つの面で利益を上げる。サービスのテックをライセンス貸しするだけでなく、製造して販売するハードウェアの接続ライセンス料も徴収している。
以前述べたように、Nanoxシステムは占有のデジタルレントゲン技術をベースとしている。これは画像をとらえて処理するのにレントゲンではなくデジタルスキャンに頼るという、画像分野では比較的新しい技術だ。Nanoxの主力製品であるARCハードウェアは重さ70kg。これに比べ、平均的なCTスキャナーは2000kgもある。そして製造コストはCTスキャナーが100〜300万ドル(約1〜3億円)なのに対し、ARCは約1万ドル(約105万円)だ。
ポリアキン氏によると、小型のマシーン(よって安い)で、画像処理のほとんどをクラウドで行うのに加えて、Nanoxシステムは1秒もかからずに画像を生成できる。既存の方法に比べて放射線被曝という点においてかなり安全だ。そのため、マシーンの所有が簡単で安くなり、そして通常のスキャンで一部の箇所だけでなく体全体をカバーでき、そこからさらに知見を得ることができる。Nanoxはまた、そうした画像からさらに正確な知見を「読む」複雑なアルゴリズムを構築している機関と提携している。
Nanoxの取り組みは、かなり注目せずにはいられないものだ。以前指摘したように、画像はこのところかなりニュースで取り上げられている。というのも、画像では新型コロナウイルスが肺や他の器官にダメージを与えているかが確認でき、画像は新型コロナ患者もしくは新型コロナに罹っているかもしれない人の症状の進行状況を最も正確に把握する手段の1つだからだ。
その一方で、グローバルの新型コロナパンデミックで人々は互いに距離を取ることを余儀なくされ、ヘルスケア分野では遠隔から患者を簡単に診断できるサービスの需要が高まった。このため、医療分野が今後どういう方向に展開されるかという点で、Nanoxと同社のアプローチは脚光を浴びることになった。
事業を次のレベルに進められるよう、Nanoxは必要な当局の承認が得られるはずだ。
「世界を変えることを目指している、と言うのはたやすい」とポリアキン氏は声明で述べた。「そうした言葉の最大の課題は常に実行にある。当社は早期発見でがんや他の病気の撲滅をサポートするという大胆なビジョンを持っている。夢を現実のものにするグローバルの医療画像サービスインフラ展開のために鋭意取り組んでいる」。
画像クレジット: Nanox
[原文へ](翻訳:Mizoguchi)
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