アップルのクックCEOが他社のスクリーンタイムアプリを排除した理由を米独禁法公聴会で弁明
AI.
昨年Apple(アップル)は、iOS 12の公開(未訳記事)に合わせて、初の自社製スクリーンタイム監視機能をリリースした。その直後、サードパーティー製のスクリーンタイム監視アプリとペアレンタルコントロールアプリをApp Storeから大量に排除した。米国時間7月29日に開催された米連邦議会による独占禁止法公聴会で同社のCEOであるTim Cook(ティム・クック)氏は、競争の制限が疑われるとしてその判断について問われた。
アップルが自社開発した一連のスクリーンタイム機能が発表されて間もなく、複数のサードパーティーのアプリ開発業者は、スクリーンタイム監視アプリをApp Storeで販売するための審査が突然厳しくなったことに気がついた。更新が認められなかったり、アプリ自体がApp Storeから削除される例も少なくなかった。この影響を受けたのは、公式な方法が存在しないため、いろいろな工夫をしてスクリーンタイムの監視を行ってきた開発業者だ。そこでは、バックグラウンドでの位置情報、VPN、MDM(モバイルデバイス管理)を利用したソリューションが用いられていた。これらを複数組み合わせたものもあった。
当時アップルは削除したアプリについて「デバイスの位置情報、アプリの利用状況、電子メールアカウント、カメラの使用権限などにアクセスする必要があり、ユーザーのプライバシーとセキュリティーを危険にさらす恐れがあった」と弁明していた。
だが米議会議員たちは、その多くのアプリが何年も前から市場に存在していたにも関わらず、なぜ突然、ユーザーのプライバシーに気を配るかのように見える態度に出たのかを同社に尋ねた。
ジョージア州選出で民主党のLucy McBath(ルーシー・マックバス)下院議員は質問の冒頭で、ある母親がアプリの削除を残念に思う気持ちをアップルに伝えた電子メールの一文を読み上げた。それには、同社の処置で「子どもたちの安全を守り、精神的な健康を保つために極めて重要なサービスの利用が制限される」と書かれていた。そしてマックバス議員はアップルに対して、独自のスクリーンタイム監視ソリューションをリリースした途端にライバルのアプリを削除した理由を尋ねた。
クック氏は「アップルは『子供のプライバシーとセキュリティー』を重視しており、それらのアプリに使われていた技術には問題があった」と昨年とほぼ同じ答弁を繰り返した。
「その当時使われていた技術はMDMと呼ばれるもので、子供が見ている画面を乗っ取り、第三者が覗くことができる。そのため、子供の安全に心を痛めていました」とクック氏は話す。
MDMを、ユーザーに知られずに遠隔操作ができる機能だと説明するのは、MDMの仕組みを正確に表現しているとは言えない。実際、MDM技術はモバイルエコシステムで合法的に使われており、今も変わらず利用されている。ただし、これは業務用として開発されたもので、一般消費者のスマートフォンではなく、例えば会社の従業員のデバイスを一括管理するといった用途に用いられる。MDMツールは、企業が従業員のデバイスの安全を守るための対策のひとつとして、デバイスの位置情報、アプリ使用の制限、電子メール、数々の認可にアクセスできるようになっている。
子供のデバイスの管理やロックを行いたい保護者にもこれが応用できると考えるのは、ある意味理解できる。一般向けの技術ではないのだが、アプリ開発者は市場の空白を見つけ、そこを自由に手に入るツールで埋める方法を編み出す。市場はそのようにして回るものだ。
アップルの主張は間違ってはいない。問題のアプリのMDMの使い方にはプライバシー上のリスクがあった。しかし、それらのアプリを完全に閉め出してしまうのではなく、代替策を提案してやるべきだったのではないか。つまり、ライバルをただ追放して済ませるのではなく、純正のiOSスクリーンタイム管理ソリューションのための開発者向けAPIを消費者向け製品とは別に準備すべきだった。
そんなAPIがあれば、アプリ開発者はアップルの純正スクリーンタイム管理とペアレンタルコントロールの機能を借りてアプリを製作できる。同社は、彼らのビジネスに引導を渡すのではなく、期限を区切って作り直させるべきだったのだ。そうすれば、開発者もその利用者も傷つけることはなかった。そうすることでサードパーティーのアプリで心配されるプライバシー問題にも対処できたに違いない。
「削除は、まったく同じタイミングだったように思えます」とマックバス議員は指摘した。「もしアップルが自社製アプリを売り込むためにライバルを傷つけようとしたのではないと言うならば、App Storeを運営するPhil Schiller(フィル・シラー)氏は、なぜライバルのペアレンタルコントロールアプリの削除を嘆くユーザーにスクリーンタイムアプリを勧めたのですか?」と同議員は質問した。
クック氏は、現在App Storeには30種類のスクリーンタイム管理アプリがあり「ペアレンタルコントロールの活気ある競争が展開されている」と答えた。しかしマックバス議員は、6カ月後には、プライバシー上の目立った変更もないままApp Storeに復活したアプリもあると指摘している。なお2019年6月、MDMアプリに関するアップルの新しい規約(アップル開発者サイト資料)が発効されている。
「6カ月とは、倒産に瀕した中小企業にとっては永遠とも言える時間です。その間に、ライバルの大企業に顧客を奪われていたとすれば、なおさら事態は深刻です」とマックバス議員は言う。
しかしマックバス議員の質問が、アップルのiBooksの外で独自のアプリを使って電子書籍を販売しようとしたRandom House(ランダムハウス)の方法を拒否した問題に移ってしまったため、クック氏にはスクリーンタイム管理アプリに関する質問へのそれ以上の弁明の時間は与えられなかった。
クック氏はRandom Houseの質問を、技術的な問題の可能性があると指摘しつつ、「アプリがApp Storeの審査を1回で通過できない理由はたくさんある」とかわした。
画像クレジット:Graeme Jennings-Pool / Getty Images
[原文へ](翻訳:金井哲夫)
引用先はこちら:アップルのクックCEOが他社のスクリーンタイムアプリを排除した理由を米独禁法公聴会で弁明