まだまだ優位を保つIntelの第10・第11世代モバイル向けCPUを知る
AI.
テレワークやオンライン学習など、新しい生活様式に欠かせないPC。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行とともに、会社から支給されたり、急きょ中古品を購入したりした人も多いだろう。しかし、そんなPCは低スペックなことがあり、急場はしのげるものの、リモートでの会議・打ち合わせや、資料の写真編集で動作がモタつく、増えた自宅時間を活用してゲームを始めたものの動作がカクツクなど、性能不足が気になってくるはずだ。特別定額給付金の支給もあり、最新PCの購入を決めた人も多いだろう。
そこで、会社や学校などの近くにあるカフェなどで仕事・学業に勤しんだり、女性の場合ならチャットアプリで化粧のエフェクトをかけつつビデオ会議アプリを使ったりと、使う場所や用途を選ばない人気のモバイルノートPC選びに役立つ最新の知識や用語を計7回にわたりお伝えしていこう。
第1回はIntelのモバイル向けCPUからだ。
10世代目に進化した、Intelのモバイル向けCPU
簡単な表計算から動画の編集&エンコード、ゲーミングなどまで、PCの性能で最も重要になるCPU。デスクトップPCの世界では、Intel Core iシリーズを超える性能でありながら安価なAMD Ryzenシリーズが注目を集め、シェアを伸ばしている一方、モバイルノートPCではまだまだIntelが優位を保っている。
そんなIntelモバイル向けCPUは、世代を重ねすでに10世代目になっており、この9月3日には第11世代が正式に発表された(後述)。
第10世代は2019年8月に投入され、Intel CPUでは初めて10nmプロセスで製造された開発コードネーム「Ice Lake」(アイス レイク)を皮切りに、従来通り製造プロセス14nmを採用する「Comet Lake」(コメット レイク)、デスクトップに迫る8コア/16スレッド・最大5.3GHzの稼働クロック(周波数)を実現したハイエンドモバイル向けの「Comet Lake-H」を投入しており、第10世代Coreプロセッサーを搭載したノートPCが各社から数多く登場している。
- Ice Lake(アイス レイク): Intel CPUでは初めて10nmプロセスで製造
- Comet Lake(コメット レイク): 製造プロセス14nmを採用
- Comet Lake-H: 製造プロセス14nm。最大5.3GHzの稼働クロック(周波数)を実現したハイエンドモバイル向け
第10世代Coreプロセッサーは、Intel CPUとして初めて10nmプロセスで製造されたIce Lakeと、従来通りの14nmプロセスで製造されたComet Lake/Comet Lake-Hの2つのスキームに分かれている。また、これまでのCoreプロセッサーと同様「Core i3」、「Core i5」、「Core i7」のラインナップに加え、「Core i9」が新たに追加され、20を超えるSKU(SKU Numeric Digits)が用意されている。
Ice LakeとComet Lakeの概要
Ice LakeおよびComet Lake/Comet Lake-Hでは、最新インターフェースの「Thunderbolt 3」(USB Type-C)や、次世代Wi-Fi規格の「Wi-Fi 6」(IEEE 802.11ax)を標準でサポートする点は共通だ。
Ice Lake
2スキームのうちIce Lakeの相違点は、Intelの定義上第11世代(Gen11)となる統合グラフィックス機能(iGPU。Integrated GPU)を搭載している点にある。
- Intel UHD Graphics(Gen11。第11世代)
- Intel Iris Plus Graphics(Gen11。第11世代)
これらiGPUファミリー自体の仕様は3種類のグレードに分かれており、Intelによると、Gen11 iGPUの上位モデル「Iris Plus Graphics」は、第8世代Coreプロセッサーで採用された第9世代(Gen9)iGPUと比べ、ゲームのフレームレートが最大1.8倍向上しているという。
実際、Gen11 iGPUの最上位で実行ユニット数64基のIntel Iris Plus Graphicsで、Epic Gamesの人気FPSゲーム「フォートナイト」をフルHD解像度、画質(プリセット)「中」でプレイしてみると、フレームレートは40~50fps程度になっていた。ゲームを遊ぶ上で「快適さ」の指標になる数値「60fps」を切ってしまっているため、カクツクことがあるものの、画質設定次第では十分プレイ可能だ。
Ice Lakeのコア/スレッド数は基本4コア/8スレッドで、稼働クロックや、バッテリー駆動時間に影響するCPUのTDP(熱設計電力)に関しては、現在28W、15W、9Wの3つのグレードに分かれており、全12のSKUが用意されている。
また、PC全体の性能に影響するメインメモリーのスピードでは、Ice Lakeの場合DDR4-3200のほかに、LPDDR4X-3733までをサポートしており、Comet Lakeの場合DDR4-2666または、LPDDR3-2133、LPDDR4X-2933よりも高速になっている点もポイントといえるだろう。
Comet Lake
Intel最先端の10nmプロセスで製造され、最新のiGPUなどを採用するIce Lakeと変わって、これまでと同じ14nm製造プロセスを採用するComet Lakeの最大の強化点は、6コアと8コア(Comet Lake-H)を投入した点になる。
6コア/12スレッドをTDP15Wの「Uプロセッサー」で実現しており、ベース稼働クロックは1.1GHzと抑え気味だが、最大稼働クロック5.1GHz(シングル時)、4.9GHz(マルチ時)のスペックを備えている。さらに、TDPが45Wになる「Hプロセッサー」では、6コア/12スレッドを2SKU、8コア/16スレッドモデルを3SKU用意し、それぞれ5GHzを超える稼働クロックを実現している。
また、TDPが7Wとなる超省電力な「Yプロセッサー」を用意しており、U、Y、Hプロセッサーを合わせると18種ものSKUを用意している。
統合グラフィックス機能重視のIce Lake、CPU処理性能重視のComet Lake
2つのスキームに分かれる第10世代Coreプロセッサーだが、そのうちIce LakeはiGPUの統合グラフィックス機能重視といえる。Comet Lakeは、これまでと同じ14nm製造プロセスや、Gen9 iGPUを採用する一方で、超省電力な4コア/8スレッドCPUから、動画の編集・エンコードといったクリエイティブな作業に効いてくる6コア・8コアや、4GHz超えの稼働クロックとなるSKUを数多く用意するCPU処理性能重視といった位置づけと思っていいだろう。
Comet Lakeの弱点といえるiGPUは、NVIDIA GeForceや、AMD RadeonといったdGPU(ディスクリートGPU。外付けGPU)を組み合わせることで、コジマプロダクションの「DEATH STRANDING」(デス・ストランディング)などといった最新の重量級3Dゲームも快適に遊ぶことが可能になる。その分コストはアップするものの、動画や写真の編集・管理から、趣味を活かした動画配信への挑戦や、最新ゲームの高画質ゲーミングなどをノートPCで快適に行うことが可能だ。
第11世代Coreプロセッサー(Tiger Lake)が正式発表
Intelは2020年9月3日、モバイル向けCPUとして第11世代Coreプロセッサー(Tiger Lake。タイガーレイク)を発表した。TDPによって「UP3」(12~28W)、「UP4」(7~15W)の2系統を用意しており、計9SKUを展開。競合製品と比べ、実環境のワークフローにおいて、コンテンツ作成が最大7倍、オフィス生産性が20%以上、ゲームストリーミングでは2倍以上の高速化を実現しているという。第11世代Coreプロセッサーを搭載した150機種以上の製品が、Acer、ASUS、Dell、Dynabook、HP、Lenovo、LG、MSI、Razer、Samsungなどから登場予定。
- UP3(12~28W): Core i7-1185G7、Core i7-1165G7、Core i5-1135G7、Core i3-1125G4、Core i3-1115G4
- UP4(7~15W): Core i7-1160G7、Core i5-1130G7、Core i3-1120G4、Core i3-1110G4
Tiger Lakeは、第10世代(Ice Lake)と同じ10nmプロセスながら、新技術「SuperFin プロセス・テクノロジー」を採用した高性能トランジスターを投入。Thunderbolt 4(USB4準拠)やIntel Wi-Fi 6(Gig+)をサポートするほか、モバイル向けとして初めてPCIe Gen 4インターフェイスを採用している。
CPU内蔵グラフィックス(iGPU)としては、グラフィックス実行ユニット数96基(最大)を備えるIntel Iris Xe Graphics、または実行ユニット数48のIntel UHD Graphicsを内蔵。パフォーマンスが前世代と比較して 最大2倍向上し、ゲームだけでなく、ストリーミング性能も競合製品と比較して2倍以上高速化したという。
さらにIntel Xe Graphicsには、Intel DL ブーストを搭載した、AI推論として初の命令セットも採用しており、最大5倍のAIパフォーマンスを実現しているという。またIntel GNA(Gaussian and Neural Accelerator) 2.0を介したニューラルノイズ抑制、背景のぼかしなども可能。
Intel Evo Platform Brand
Intelは、以下に挙げる内容を含むノートPC向け認証プログラム「Project Athena」第2版についても公開した。Project Athena準拠の製品はIntel Evo Platform Brandのロゴマークが貼付される。EvoベースのノートPCは、年内に20種類を超える製品が発売予定としている。
- モバイル向け第11世代Core i5/i7およびIntel Xe Graphicsを搭載
- 8GB以上のメモリー
- 256GB以上のPCIe/NVMe SSD
- Thunderbolt 4(USB4準拠)
- Intel Wi-Fi 6(Gig+)
- AI(推論)アクセラレーション(Intel DL ブースト + Intel GNA 2.0、OpenVINO、WinML)
- バッテリー駆動時も安定した応答性
- スリープ状態から1秒未満で起動
- フルHDディスプレイ搭載システムにおいて、実際の作業で9時間以上のバッテリー駆動
- フルHDディスプレイ搭載システムにおいて、30分以内で最大4時間駆動分の急速充電
プロセッサーナンバーで性能を見分ける
第10世代CoreプロセッサーにあたるIce LakeとComet Lakeとでは、プロセッサナンバー(数字とアルファベットを組み合わせた型番)の命名規則が異なっている。また第11世代のTiger Lakeは、Ice Lakeの命名規則が引き継がれた形だ。どのCPUが高性能なのか、ひと目で判断できなくなっている点も知っておきたいところだ。
まずIce LakeとTiger Lakeは、「Core i×」の後ろの数字が4桁で、前半2桁がCPUの世代(第10世代または第11世代)、続く2桁がCPUのSKUになる。そして続くアルファベットと数字で統合グラフック機能(iGPU)のグレードを表している。例えば「Intel UHD Graphics」を内蔵するなら「G1」、「Intel Iris Plus Graphics」の実行ユニット数48基なら「G4」、実行ユニット数64基なら「G7」となっている。
基本的に、TDPの違いを表していた「U」や「Y」はなくなったが、新たに追加されたTDP28WのSKUのみ、CPUのSKUの後に「N」が追加され「Core i×-10××NG×」となっている。TDPが分かりづらくなったが、Ice Lakeの特徴となるiGPUのグレードは、ひと目でわかる形だ。
そしてComet Lakeは、これまでのIntel モバイル向けCoreプロセッサーと同じになる。Core i×-10より後ろの数字3桁がCPUのSKUで、末尾のアルファベットがTDPの種別になっている。なお、TDPがデスクトップクラスの45Wになっているクリエイターやゲーミング用途向けのハイエンドの「H」には、末尾に「K」が追加され、オーバークロック機能の「Intel Speed Optimizer」に対応する「Core i9-10980HK」もある。
基本的に、CPU処理性能が高いほどCPUのSKUの数字が大きくなるという点は、これまでと同じと思って問題ない。しかし今後は、プロセッサーナンバーだけで比べるのは止めて、SKUのスペックを確認するようにした方が安全だろう。
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