#アナタノミカタ 

月15万円もらえる実験も!? 2020年のベーシックインカムを振り返る
AI..

画像はUnsplashより

2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大にともなう、景気や失業率の悪化などを受け、世界各国でベーシックインカムにさらなる注目が集まった1年だった。

もちろん、新型コロナウイルス感染症が感染拡大する以前から、ベーシックインカムは人工知能(AI)の進歩に加え、少子高齢化や格差拡大などの社会的背景もあり、すでに世界各国で熱いまなざしが向けられていた。とくに、AIに関しては「AIは仕事を奪う」といった議論がなされていることが大きい。

この記事では、「来年こそ実現するか!?」といった期待を込めながらも、2020年における国内外のベーシックインカムに関する出来事を1月から順に振り返りたい。

元ZOZOの前澤友作氏、1000名に100万円ずつ配布 離婚率が6割も下がるなど効果も

年が明けて間もなく、元・株式会社ZOZO代表取締役社長の前澤友作氏が自身のTwitterアカウントで、「【総額10億円】#前澤お年玉 100万円を1000人にプレゼントします!」と宣言。翌日の1月2日には「ずばり#前澤お年玉で僕が実験したいことは『ベーシックインカム、前澤個人でやってみた』です」と、隠れた意図を明らかにした。

同実験では、1000名に100万円ずつ(総額10億円)を配布。対象者は「100万円を4月に一括受け取り(250名)」「100万円を10月に一括受け取り(250名)」「100万円を1年間分割で受け取り(500名)」「100万円は受け取らないが、この社会実験に協力する人(7万8117名)」の4つに分かれている。

実験の研究チームには『人工知能と経済の未来』(文藝春秋)などの著書で知られる駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏、⼀橋⼤学経済研究所教授の宇南⼭卓氏が参加した。

実験の結果、現金をもらわなかったグループより、現金をもらったグループのほうが10%ほど幸福度は高いとわかった。研究チームによると、この数字は年収が150~200万円上がったくらいの効果に値するという。

また、離婚率に目を向けると、現金をもらわなかったグループは1.5%、現金をもらったグループは0.6%と離婚率が減少した。研究チームは「現金給付が家族関係に良い影響を及ぼし、離婚率が下がる」という可能性が示唆されたとしている。

井上智洋氏は公式サイトに、「皆様、調査へのご協力ありがとうございます。100万円の現金給付がなされることで、人々がよりハッピーで充実した生活が送れるようになるという実験結果が得られる可能性があることは、これまでベーシックインカムの導入を訴えてきた学者の1人として、大変感慨深いものがあります」とコメントを寄せた。

また、今後については「100万円が、本当に起業や留学といったことにチャレンジしようとする人々の後押しになるのか。コロナの影響があって難しい側面もありますが、引き続き注視していきたいです」と意気込んでいる。

>>前澤式ベーシックインカム社会実験

ドイツで月15万円のベーシックインカム実験 4日で希望者が120万人に

8月中旬には、ドイツの経済研究所が2021年の春から、全国民に無条件で一律の現金を給付する「ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)」を試験的に導入することが明らかになった。

実験の参加者である120人は3年間、毎月1200ユーロ(約15万円)を受け取れる。3年間での支給総額は4万3200ユーロ(約540万円)になる。米Business Insiderによると、支給額はドイツの貧困ラインをわずかに上回る額という。

研究者たちは本実験の参加者である120人と、支給を受けない1380人の別のグループを比較。参加者には生活や仕事、感情状態についてのアンケートに回答を求め、経済と受給者の幸福にどのような影響を与えるか研究するとしている。

時事ドットコムの報道によると、ドイツ在住の18歳以上という条件のみで参加者を募集したところ、募集からわずか4日で希望者が120万人に達したとのこと。ドイツ国内での注目度の高さがうかがえる。

スペイン、上限約12万8000円のベーシックインカム 申請殺到で行き詰まりに

一方で、同じ8月末には、スペイン政府による「ベーシックインカム(最低所得保障)」に申請が殺到しており、行き詰まり状態であると明らかになった。8月20日時点では申請は75万件あるものの、審査済みは14万3000件、承認済みは8万件に過ぎないという。

スペイン政府によるベーシックインカムは選挙前から公約に掲げられていたが、5月29日に新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともなう経済への大打撃を受け、ペドロ・サンチェス首相率いる社会労働党(PSOE)とポデモス党による連立政権が閣議で承認した。

NewSphereの報道によると、スペイン政府によるベーシックインカムは、全国民に無条件で一律の現金を給付する「ユニバーサル・ベーシックインカム」とは異なり、実際は収入や扶養家族の数によって給付額が決定される「ベーシックインカム(最低所得保障)」という。

対象世帯はスペイン全人口の約4万7329万人(2020年1月1日現在)のうち、250万人(85万世帯)。給付金額は一人暮らしの成人には月462ユーロ(約5万8000円)の所得を保障しており、家族と暮らす場合は成人か未成年か問わず1人あたり月139ユーロ(約1万7000円)を追加する。ただし、上限は月1015ユーロ(約12万8000円)まで。

サンフランシスコで月10万円以上のベーシックインカム 対象はアーティスト

10月には、アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコのロンドン・ブリード市長が2021年初頭から最低でも半年間、130人のアーティスト(芸術家)を対象に、月1000ドル(約10万5000円)の「ベーシックインカム(最低所得保障)」のパイロットプログラムを導入すると発表した。

今回のベーシックインカムはアーティストを対象としており、支給されたお金は食費や家賃、画材など、個人が望むものに使用できるという。申請は10月30日まで受け付けていた。

artnet NewsやArtforum Internationalの報道によると、同プログラムはアーティストといった特定のグループを対象にしており、「ユニバーサル・ベーシックインカム」とは異なるとして、批評家たちに批判されているという。

一方で、近年、サンフランシスコの家賃は上昇し続けている。日本で10月9日に封切られたアメリカ映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』も、サンフランシスコにおける「ジェントリフィケーション(地域の高級化、都市の富裕化)」を題材にした作品だ。

サンフランシスコはこのような家賃上昇の影響で、芸術コミュニティを7割失ったとされる。今回発表されたベーシックインカムのパイロットプログラムは、同市におけるアーティストの維持に役立つのではないか、といった肯定的な声もあるとのこと。

Twitter創設者がベーシックインカムのため16億円を寄付、アメリカ政府に影響を与えることに期待

年の瀬の12月には、Twitterの共同創設者兼CEOのジャック・ドーシー氏が、ベーシックインカムを実現するために、1500万ドル(約15億6000万円)を寄付することが明らかになった。

今回、ジャック・ドーシー氏が寄付したのは「ユニバーサル・ベーシックインカム」を提唱する「Mayors for a Guaranteed Income」という連合。同連合は、2019年からアメリカ国内において市レベルで初とされるユニバーサル・ベーシックインカムの導入実験を実施したことで知られる、カリフォルニア州ストックトンのマイケル・タブス市長らが立ち上げた。

6月29日には、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスなど同連盟に加入する11都市の市長らが、ユニバーサル・ベーシックインカムを導入するために努力すると宣言した、と米Forbesに報じられていた。

同報道時に、市長が同連合に参加していたのはカリフォルニア州のロサンゼルス、オークランド、ストックトン、コンプトンに加え、ジョージア州アトランタ、ワシントン州タコマ、ニュージャージー州ニューアーク、ミネソタ州セントポール、ミシシッピ州ジャクソン、ルイジアナ州シュリーブポート。

12月9日現在、同連合にはそれらの市長に加え、ニューヨーク州イサカやマウントバーノン、カリフォルニア州ロングビーチ、ニューヨーク州ハドソン、ワシントン州シアトル、ペンシルベニア州フィラデルフィア、サウスカロライナ州コロンビア、ルイジアナ州ニューオーリンズ、テキサス州サンアントニオなどの市長らも参加。すでに25以上の都市が加入している。

ジャック・ドーシー氏はすでに7月に、「Mayors for a Guaranteed Income」に300万ドル(約3億1000円)を寄付している。今回の1500万ドル(約15億6000万円)の寄付はこれを受けたものとされる。

ジャック・ドーシー氏は今回の寄付に際して、自身のTwitterアカウントにおいて、同連盟を立ち上げたカリフォルニア州ストックトンのマイケル・タブス市長の書き込みを引用ツイートする形で、「(マイケル・タブス)市長と市長のみなさん、ありがとうございました。ベーシックインカム・パイロットのために! 将来的には、(アメリカ)連邦政府政策に情報を提供してくれることを願っています」と述べている。

ベーシックインカム実現を目指すヤン氏、NY州の市長選出馬か

同じく12月には、ベーシックインカムの実現を目指し、2020年11月3日のアメリカ合衆国大統領選挙の民主党候補者の指名争いで注目を集めた実業家のアンドリュー・ヤン(アンドリュー・ヤング)氏が、2021年のニューヨーク市長選への出馬に向け書類提出の手続きをした、と米Bloombergなどに報じられた。

それ以前から、アンドリュー・ヤン氏は2021年のニューヨーク市長選への出馬を検討している、と米Forbesや米ニューヨーク・タイムズなどに報じられていた。今回の米Bloombergなどの報道により、アンドリュー・ヤン氏の意思が明白になった形と言える。

アンドリュー・ヤン氏は、アメリカ合衆国大統領選挙の民主党候補者の指名争いにおいては、18歳以上の全国民に1カ月1000ドル(約10万4000円)を支給する「ユニバーサル・ベーシックインカム」を公約に掲げていた。引き続き、今後の動向からも目が離せない。

>>米Bloombergによる報道

>>米Forbesによる報道

>>米ニューヨーク・タイムズによる報道

AIは仕事を奪うのか生み出すのか

なお、冒頭で触れたとおり、ベーシックインカムの背景の1つとして「AIは仕事を奪う」といった議論がなされていることが大きい。Ledge.ai編集部では過去に、オックスフォード大学の論文と野村総合研究所のレポートをもとに、実際にどのような仕事がなくなり、残るのか具体的に探っている。気になる人は以下の記事をチェックしてほしい。

引用先はこちら:月15万円もらえる実験も!? 2020年のベーシックインカムを振り返る

#アナタノミカタ