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メディアとスタートアップにおける「黄金の釜」論
AI.

週が改まれば、また新しいニュースレターが届く。今週は、近年Politico(ポリティコ)から独立したJake Sherman(ジェイク・シャーマン)氏、Anna Palmer(アンア・パーマー)氏、John Bresnahan(ジョン・ブレスナハン)氏らが執筆する政治問題を中心としたニュースレターPunchbowl(パンチボウル)の話題だ。この件に関しては、Ben Smith(ベン・スミス)氏も記事(NTYimes記事)を書き、さらにThe Daily Beast(デイリー・ビースト)のMaxwell Tani (マックスウェル・タニ)氏もたっぷりと詳細な記事(The Daily Beast記事)を書いている。

なぜ私たちは、Politico Playbook(ポリティコ・プレイブック)、Axios(アクシオス)、The Daily 202(ザ・デイ202)など、ベルトウェイ(訳注:ワシントンD.C.の別称)の政治を分析するニュースレターがすでに数多く存在する中で、さらに新たなニュースレターが必要なのか。実際、なぜ私たちは、スタートアップ企業を紹介するテック系ニュースレターの情報をこれほど大量に必要とするのか(私が数えた限りでは、この業界を対象としたニュースレターは少なくとも数千はある)。なぜメディアの世界では、かつてはもっぱらロングテールのことを伝えるものとされていたニューメディア系スタートアップが、おしなべて同一のニッチ市場ばかりを繰り返し報道するようになったのか。

そこにあるのが黄金の釜だ。メディアは、他の数あるスタートアップ市場とは少し違っている。多様な製品のための永遠の需要があるように見えるが、大きな金が動く需要はほんのひと握りだ。

メディアには、ワシントンD.C.の政治スクープや投資銀行、M&A、ベンチャーキャピタルに関するニュースによって勝者が大量の読者を勝ち取り、おまけにサブスクリプションや広告による大量の収益も獲得できるという、古風で小さなスタートアップの世界がある。ニッチ市場は他にも山ほどあるのだがリーダーシップ、ユーザー、収入源が限られているために疲弊している。

いい換えればそこは、勝者総取りのトーナメント方式の市場であり、高い勝率でそこそこの収益を得るよりも、一攫千金を狙いたくなる場所なのだ。医療の世界では「全員」がガンの治療を目指す。熱帯病の治療はほとんど見向きもされない(治療できれば無数の人たちが恩恵を受けるに違いないのだが)。結局、ノーベル賞が授与されるのは、単に優れた科学ではなく、一定の注目度のある当代で最大の進歩だ。スタートアップ企業の創設者は、最大のビジネスと最大の顧客市場を目指す。市場を席巻することもない、ちょっとした便利なアプリではない。

ユニコーン企業は小さな市場からは生まれない。

もちろんこのモデルは、多くの市場に大きな負の外部性をもたらす。米国会議事堂周辺で、またはサンドヒルロード(訳注:ベンチャー投資会社が建ち並ぶシリコンバレーの道路)沿いで「最初に読まれるニュースレター」となるための競争がもたらすのは、幅広いさまざまな意見からなる選択肢ではなく、まったく同じ問題のまったく同じ分析の過剰な押しつけだ。新しいマーケティングテクノロジーや州議会などの報道は、もっとたくさんあってしかるべきだ。

スタートアップにおいて、たとえばフィンテックの極めて重要なレイヤーへの参入口は無数にある。資産管理のスタートアップや投資信託の自動投資(いわゆるロボアドバイザー)に特化した製品ですでに使われているものは、少なくとも50、いや100はある。それでも中には大儲けできるレイヤーもあるため、分別ある企業創設者は大抵口を揃えてこういう。「この道の先で報酬を手に入れる」と。

自由市場とは、そうしたニッチな分野でうまく回っていくものと思いたい。ワシントンD.C.のメディア界で注目を集めるための、または資産管理業界でユーザーを獲得するための競争においては、極限までコストを下げ、市場のパイをうんと小さく切り分けて、新規参入者には魅力が薄く、他のニッチ市場のほうがもっと大きな勝算があるように見せさえすればよい。

パイがどんどん分割されるようになれば、それが実現する。だがこの10年間の経験から私が思うに、そうなる可能性は低い。ワシントンD.C.の政治は、政治報道にとって黄金の釜だからだ。スクープを勝ち取るのは、3つのニュースレターの中の1つと決まっている。ウォールストリートのM&A情報は、ビジネスジャーナリズムの黄金の釜だ。最も重要な情報源を集中管理するひと握りの記者が、スクープを独占している。ベンチャー投資に関する報道は、スタートアップメディアの黄金の釜だ。TechCrunchと仲良しの競合他社数社が毎日懸命に記事を書いているのはそのためだ。

いつでも新しい市場が生まれ、古い市場は拡大し縮小していく。どこからともなく突然現れて、その独創性とまったく新しい分野を生み出してはまばゆく輝くスタートアップは必ず存在する。しかし、そのようにして誕生したユニコーン企業もみな、既存の大きな市場の中から生まれた他の10社ほどと、勝者だけに贈られる大きな報酬を競い合っている。

投資家が、1つの分野で15のスタートアップに投資したいと考えても何ら悪いことはない。報酬が得られるのだから、少なくとも報酬があると信じる場所であるからそれは道理だ。変革すべきは、他のニッチに、イノベーションのための同様の動機をもたらす方法だ。もっと多くの市場が黄金の釜を提供できるようにするには、どうすればよいのか。そもそも、そんなことが可能なのか。それとも私たちは、McConnell(マコーネル)、Schumer(シューマー)両上院議員の策謀を伝える100本のニュースレターをマコーネル氏の広告つきで読み続ける運命にあるのだろうか。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:コラム

画像クレジット:LEONELLO CALVETTI

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(翻訳:金井哲夫)

引用先はこちら:メディアとスタートアップにおける「黄金の釜」論

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