ドコモ、KDDIも利用するミリ波5Gテストツールの台湾TMYTEKが基地局に狙いを定める
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5Gミリ波機器のテスト用プロダクトを開発する台湾のスタートアップであるTMYTEKがシリーズA+ラウンドを実施し1000万ドル(約10億3000万円)を調達した。現在同社のユーザーには日本のKDDI、NTTドコモをはじめ各種研究機関が含まれている。TMYTEKはNokia(ノキア)、Ericsson(エリクソン)、Samsung(サムスン)、Huawei(ファーウェイ)などの既存企業に対抗して独自の基地局ソリューションを販売することも目標としている。TMYTEKは、ユーザーが5Gインフラを開発するのを支援してきたが、共同ファウンダーでCEOのSu-Wei Chang(スー・ウェイ・チャン)氏は「これによって得たノウハウを生かして完全な5G機器のサプライチェーン」を構築するとしている。
今回の資金調達ラウンドでは、台湾最大のOEMの1つでTMYTEKのパートナーであるInventecがリードした。これまでの資金調達のトータルは1330万ドル(約13億7000万円)となった。ラウンドには台湾政府の国家発展基金を始めTaisic Materials、ITEQ、日本の多摩川電子も参加した。TMYTEKは最近、台北のSparkLabsアクセラレータプログラムにも参加している。
CEOのスー・ウェイ・チャン氏は、TechCrunchの取材に対し「基地局の開発・商品化のためにさらにシリーズBラウンドを実施する予定だ」と語っている。最近、TMYTEKはO-RAN Allianceに参加した。この組織は5G時代の無線アクセスネットワークのオープン化、インテリジェント化のために日本のNTTドコモをはじめとする主要キャリアによって設立された標準化団体だ。
チャン氏によれば、TMYTEKのが台湾を拠点することには戦略的優位性があるという。5G機器は台湾経済の重要な部分であり2020年下半期には過去最高の輸出(AmCham Taipei記事)を達成した。これはスマートフォン、自動運転車、スマートデバイス用の5G関連機器、テクノロジーに対する需要の高まりも追い風となったものだ。
同氏はマサチューセッツ大学アマースト校で学んだ。6年前に台湾でTMYTEKを設立したとき、スタートアップ資金確保が容易な米国で行わなかった理由をよく尋ねられた。しかし台湾に本拠を置くことで日本をはじめとする重要な市場へのアクセスが得ることができた。現在の同社の事業の30%を日本が占めており、米国や欧州に事業を拡大するための基礎を確立できたという。
また台湾という地理的条件により、サプライチェーン上の利点も得られた。TMYTEKは中国本土に加えて、台湾のInventec、ベトナム、タイなどアジア全域の多数のメーカーをパートナーとしている。チャン氏は「これは我々が新型コロナウイルスのパンデミックや米中貿易摩擦の激化によって不利益を受けなったことを示しています」と述べた。
2014年にTMYTEKを立ち上げる以前、共同ファウンダーのチャン氏とEthan Lin(イーサン・リン)氏は、台湾のトップ研究機関の1つである中央研究院(Academia Sinica)に所属していた。当時、移動体通信の研究者の多くはミッドバンドを対象としていたが、両氏はミリ波に研究の焦点を合わせた。
しかしデバイス、アプリの数が飛躍的に増加し、4Gスペクトルが混雑し始めるとミリ波はニッチな研究対象ではなくなった。Qualcommが次世代の5Gミリ波用のハードウェアとチップを発表し、ミリ波をカバーするキャリアが増え、ミリ波がメインストリームに浮上した。
高い周波数帯域を利用するミリ波は、原理的に多数のチャンネルを収容できレイテンシーも低いが、建物などの障害物に遮られやすいという欠点もある。カバー範囲が限定を受けやすいため基地局の数は増加する。デメリットを克服するために信号を特定のデバイスに志向するビームフォーミング、複数のアンテナを単一のアンテナのように機能させるアンテナアレイなどのテクノロジーも必要となる。
5G基地局、デバイスを開発する時間とコストを80%節約できる
ミリ波普及における課題の1つは、既存のR&Dツールが利用できないため市場投入までの期間が長くなりがちでコストもかさむことだ。
この状況を事業のチャンスとみたTMYTEKは、クライアント向けに設計や製造を行うOEMの立場から、BBox(ビームフォーミングボックス)のようなミリ波5G普及に必須となるソリューションの販売に重点を移した。このプロダクトを開発したきっかけは国立台湾大学の教授が「私のチームは5Gデバイスのアンテナ設計に取り組んでいるが、基地局側でビームフォーミングできるテクノロジーが必要だ」と語ったことだった。BBoxはソフトウェアを使用して電波信号の振幅と位相を制御して16のビームを作成できる。これによりアンテナやその他のハードウェアの機能するか迅速にテストできる。TMYTEKは、BBoxはエンジニアがデバイスを開発する時間とコストを80%節約できるとしている。
チャン氏によると、TMYTEKは台湾で最も先進的な研究を行っている国立台湾大学の研究者があるソリューションを必要としている場合、その需要は普遍的なものであることに気づいた。すでにBBoxは日本のKDDI、NTTドコモ、富士通をはじめフォーチュン500企業や研究機関などに30セットが納入ずみだという。
BBoxはデバイスのアンテナ設計者向けのプロダクトだが、同社では他の設計分野を支援するソリューションも開発中だ。これにはビームトラッキングなど基地局とデバイスの通信やデータの収集を助けるアルゴリズムの開発が含まれる。
MYTEKのXBeamはこのためのツールで、「トータルソリューション」と呼ばれ大量生産における各段階をサポートする。ツールが対象とするのはスマートフォン自体、基地局に含まれるモジュールをテストできる。従来のソリューションはメカニカルな回転子を利用していたが、チャン氏は「研究開発の段階ではいいが、大量生産段階のテストには向かない」という。BBoxをベースにしたXBeamは電子的操作によってビームを生成してスキャンする。同社によればXBeamは他のテストソリューションよりも最大20倍高速だという。
TMYTEKは2019年にXBeamのプロトタイプを発表し、2020年11月に商品化した。
BBoxとXBeamはTMYTEK自身が基地局ビジネスを構築するための重要な資産だ。同社はこれらの独自のソリューションによって基地局をテストを効率化し市場投入までの期間を短縮できる。次にこうしたツールが高い評価を受ければ、基地局をキャリアや企業内ネットワークをマーケティングする上で役立つ。TMYTEKは基地局局ビジネスをノキア、エリクソン、サムスン、ファーウェイなどに対抗できる製品とすることを目指しているため、これは特に重要だ。
「TMYTEKの強みは自分自身で設計を行う能力があり、製造のために優れたパートナーを有しているいることです。投資家のInventecは、台湾のトップ5メーカーです。またTMYTEKは独自のテストソリューションも構築しているためユーザー企業にトータルソリューションを提供できます。これらがTMYTEKが価値ある企業である理由です」とチャン氏は述べた。
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カテゴリー:ハードウェア
タグ:TMYTEK、5G、台湾、資金調達
画像クレジット:TMYTEK
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)
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