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テック業界はジョージ・フロイドの死をどう受け止めたのか
AI.

ミネソタ州ミネアポリスで丸腰の黒人男性George Floyd(ジョージ・フロイド)氏が警察による残忍な仕打ちによって殺された事件は、現代史の中でも最大規模のデモ活動へと発展した。フロイド氏が死亡してからこれまで数週間、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)に関する議論や、テック業界が白人至上主義擁護の一端を担ってきた実態に関する議論が再発し、大きな注目を集めている。

しかし、大切なのは言葉ではなく、行動である。テック業界を真の意味で変えるには行動あるのみだ。そうでなければ、テック業界の企業や経営者によって表明された幾百もの声明は何の意味も持たなくなる。これから数週間、数か月、あるいは数年後に社会の注目が別のものに移ったら、今発せられている言葉は忘れ去られることだろう。だからこそ、テック業界はフロイド氏の痛ましい死を統計の中に埋没させるのではなく、テック業界において人種構成のシフト、ひいては力関係のシフトを実現するための推進力とすることが重要だ。

この悲劇をうけて、多くのテック企業やその経営者たちが人種差別に抗議する声明を発表した。例えば、LinkedIn(リンクトイン)は「私たちの同僚と黒人コミュニティを支持する」、Salesforce(セールスフォース)は「私たちは黒人コミュニティと共に人種差別、暴力、憎しみと戦う」といったコメントを発表している。Facebook(フェイスブック)も「変化を起こす責任は私たちすべてにある」とコメントしたが、同社は実際には、デモ鎮圧のために派遣された米税関国境警備局と契約していたり、ドナルド・トランプ大統領が暴力をあおる投稿をしてもそれを放置したりと、社員が人種差別を擁護する環境を助長している。これらは数多くの声明のうちの一部にすぎないが、どれにも共通しているのが「自分も共犯だという罪悪感」だ。

リンクトインのRyan Roslansky(ライアン・ロスランスキー)CEOは前述のコメントを発表した後、社員との対話集会の際に、人種差別を擁護する社員が参加する中で次のように語った。

「私たちが愛し、高い基準を守ろうと努力しているこの会社でも、本当の意味で人種差別のない文化を創るには、自分自身も同僚たちも努力すべきことがまだたくさんあるという現実を認めることが最も難しいと感じた人が多いと思う。しかし、私たちはそれを必ず成し遂げる」(ロスランスキー氏)。

共犯感情とは別に、多様性、包括性、平等性の領域で長年問題視されてきたのは、口先だけで行動が伴わないリップサービスだ。考えてみてほしい。テック企業の経営者たちは以前にも、丸腰の黒人が警察によって殺された事件について声明を出したことがある。それでも、テック業界の従業員数に占める黒人および有色人種の割合は相変わらず低いし、人々をインターネット上での人種差別その他のハラスメントから守るためのポリシー策定状況もほとんど変化していない。

例えば、Thumbtack(サムタック)は、同社が黒人たちの声に寄り添いD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)プログラムを成功させるために投資する意向であることを説明した記事の中で、ダイバーシティ&インクルージョン推進担当者を新たに雇用することを発表した。というのも、同社はつい最近、ダイバーシティ&インクルージョン推進担当者を4年間務めたAlex Lahmeyer(アレックス・ラーマイヤー)氏を4月に解雇したばかりだったからだ。ラーマイヤー氏のLinkedInによると、同氏は新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で250人のチームメイトとともに解雇されたという

ラーマイヤー氏はLinkedInへの投稿の中で、「驚きはしなかったが、サムタックがDEI(ダイバーシティ(多様性)・インクルージョン(包括性)・エクイティ(平等性))プログラムをPR戦略として使っていただけで、この部署をまるで重荷であるかのように切り捨てたことに腹が立った。確かに、財政的に困難な状況に直面している会社もあるが、過小評価されている従業員に注意を向けてその声を聴く部署を廃止するのにこれ以上悪いタイミングはなかったと思う」と書いた。

サムタックはTechCrunchに対し、「ビジネスが新型コロナウイルスの影響から持ち直した」、そして現在はもっぱら新しいDEI推進担当者の求人を行っている、と回答した。

サムタックの広報担当者によると、「当社はDEI推進担当者の採用を最優先にすることで、より優れた多様性、平等性、包括性を備えたチームを築きたいと考えている」とのことだ。

ラーマイヤー氏はその後、テッククランチに対し、サムタックがDEI推進担当者を探していることは知っているが「戻るつもりはない」と語った。

Google(グーグル)も同じく、ここ数年間にダイバーシティを推進する数々の取り組みを廃止したことが報道されているAlphabet(アルファベット)のSundar Pichai(スンダル・ピチャイ)CEOはフロイド氏の死亡事件をうけて、一致団結を求めるコメントを発表し、GoogleとYouTubeのホームページを、人種間平等を訴える仕様に変えた。しかし、重要なのは言葉より行動だ。

長年にわたりこの点で何も行動を起こさず後退していたテック業界だが、今こそ一歩踏み出して、人種間平等を実現するために意義ある変化を遂げることができるかもしれない。しかし、テック企業が今こそ変化を遂げるには、ダイバーシティ・インクルージョン推進の取り組みを縮小するのではなく、強化する必要がある。つまり、黒人やブラウン人種の社員を増やし、平等で一貫性のある人事考課プロセスを導入し、性別だけでなく人種に関係する賃金格差もなくして、昇給や昇進に関する明確な制度を設けることだ。繰り返すが、重要なのは行動である。

フロイド氏死亡事件をうけて、すでにいくつかのテック企業は今後の発展につながりそうな第一歩を踏み出した。例えば、投資家のJason Lemkin(ジェイソン・レムキン)氏は、6月は黒人の創業者との面談だけを受け付ける意向だ。また、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)は、テック業界の黒人創業者やその他の過小評価されている創業者に対する財政支援を行う新しいプログラムを用意している。

Backstage Capital(バックステージ・キャピタル)の創業者兼マネージングパートナーのArlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏は、筆者がCommonwealth Club(コモンウェルス・クラブ)で行ったインタビューの中で、「完璧な方法というものはありませんが、他よりも優れた方法でこの課題に取り組んでいる人々が確かに存在すると思います。そして、一部の人によるうんざりするほどの沈黙は、それだけで何を考えているかわかります」と語った。

投資家ができる最善のことは、投資家としての仕事を全うすることだとハミルトン氏はいう。

「多様性を持つ創業者に注目することが投資家の仕事です。これまでは上司が見回ってなかったので、陰に隠れて仕事をしないでいることができました。でも今は、すべての出資者が目を光らせています。ふさわしい投資候補先が見つからないからといって簡単にあきらめないでください」(ハミルトン氏)。

現時点で最も思い切った行動は、Reddit(レディット)の創業者Alexis Ohanian(アレクシス・オハニアン)氏が取締役から退いたことだろう。長い間、人種差別や性差別をはじめとする問題あるコンテンツがあふれていたレディットのプラットフォームはオハニアン氏が2005年に立ち上げたものだ。そのオハニアン氏が今、自分が創業した会社に対して、後任の取締役には黒人を選任するように求めている。加えて、同氏は自身が所有するレディットの株式から今後得られる利益を黒人コミュニティに投資することも明らかにした。

テック企業の取締役会にはこれまで長い間、黒人役員が非常に少なかった。これこそJesse Jackson(ジェシー・ジャクソン)牧師が少なくとも2014年から求めてきたことであり、Congressional Black Caucus(連邦議会黒人幹部会、CBC)が2015年から要求してきたことである。テック企業はこの点で、何年もかけて多少の進歩を遂げた。例えば、2015年にCBCが取締役会の多様化向上を提唱してからわずか数か月後に、Apple(アップル)は取締役として、Boeing(ボーイング)の前CFO兼プレジデントのJames Bell(ジェームズ・ベル)氏を選任した。また、2018年には、Airbnb(エアービーアンドビー)、フェイスブック、Slack(スラック)をはじめとする一部のテック企業が黒人の取締役を選任した。しかしテック企業の取締役は依然として白人男性が圧倒的に多い。

だからこそオハニアン氏の取締役退任と黒人選任の要求に重要な意味がある。事実上、自分を権力の座から外し、自分の代わりに黒人取締役がその座に就けるようにしているからだ。オハニアン氏は現在、取締役会に推薦するために後任の最終候補者を絞っているところだという

The Human Utility(ザ・ヒューマン・ユティリティ)の創業者Tiffani Ashley Bell(ティファニー・アシュリー・ベル)氏は、オハニアン氏の後任取締役に立候補している人の1人だ。ベル氏は自身がTwitterでつぶやいているように「文字通り、白人至上主義を取り除くためのソースコードをテック業界全体に(読者からのメッセージによると他の業界にも)公開した」という。

そのソースコードとは、この記事のことだ。秀逸な記事なのでぜひ一読してみてほしい。この記事の中でベル氏は、白人至上主義を排除できるかどうかは詰まるところ各人の意欲の問題だとし、内省を促して、白人至上主義を擁護しているかどうか吟味するために考案された質問をいくつか紹介している。そしてベル氏もまた、行動が重要であることを強調している。

以下、記事の一部を引用する:

黒人社員のために進んで場所を確保するだろうか。現在のチームに、特にリーダー的なポジションに、黒人の社員がいるだろうか。もしいないなら黒人社員の採用を他の成長戦略と同じように重要だとみなして、それをやり遂げるだろうか。歴史的黒人大学(HBCU)の学生を、歴史的白人大学の学生と同じほど熱心に採用するだろうか。あなたの会社は全米黒人技術者会の就職フェアに出展したことがあるだろうか。

前述したように、黒人への残忍な暴行殺人事件についてテック業界が声をあげるのはこれが初めてではない。しかし、今回はこれまでとは何かが違うと感じる。ハミルトン氏によると、それはほとんどの人が新型コロナウイルス感染症の影響で長期にわたり在宅しているせいではないか、という。

「今、世界も米国も一日中、黒人が直面している現実をまるで目の前で起きている出来事のように目撃して理解し、感情移入しているんです。これまでも、人々はそのような出来事の一部を確かに見てはいましたが、それでもやはり私たちが何となく保護フィルターをかけてしまっていたように思います。全部を見せてはいなかった。それが今は、新型コロナウイルスの影響で、米国民はあたかもVRデバイスをかぶせられたかのように、現実を目の前で直視せざるを得ない状況に置かれているんです」と、ハミルトン氏は筆者に語った。

どれが単なるパフォーマンス行為で、どれが実質的な変化につながる行為なのかを、現時点で判断することは難しい。テック業界のCEOや投資家が今回の事件をうけて発した耳当たりのよい言葉の数々の中で(あるとすれば)どれが本当に行動を伴って具体的な成果をあげるのか、テッククランチは今後も注目していく。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

タグ:コラム 差別

[原文]

(翻訳:Dragonfly)

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