英国で最大の遺言書作成者となったオンライン遺言・火葬サービスのFarewillが約27億円調達
AI.
毎日の新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大のニュース、新型コロナ関連死の悲しいニュース、ロックダウンに伴う生活面での制限によって、多くの人が死ぬべき運命の概念を意識している。一部の人は実際に死への対応を迫られている。そして7月8日、死に関する一連のサービスを構築したスタートアップがこの業界でさらに成長しようと資金調達を発表した。
オンラインで遺書を残したり、相続税や不動産にかかる納税の分類などの遺言検認サービス、火葬命令などを手配可能なサービスを提供している英国のスタートアップFarewill(フェアウィル)は、2000万ポンド(約27億円)を調達した。この資金で、事業を成長させるだけでなく、自身、そして愛する人の死に伴って発生する作業をサポートしたいと同社は考えている。
「死を恥ずかしいものにしないことで手助けしたい」とFarewillのCEOであるDan Garrett(ダン・ギャレット)氏は命題の難しさについてインタビューで述べた。「我々は皆、死に向き合わなければならない。死は皆の中にある。しかし我々の大半は心理的に死について考えないようにしている。その結果、顧客のことを考えない業界の言いなりになってきた」。
もう想像がついているかと思うが、社名は「farewell(別れ)」にかけている。「言葉のひっかけを考えると、会社を始められる」とギャレット氏は皮肉めかして述べた。
今回の資金調達はHighland Europeがリードし、Keen Ventures、Rich Pierson of Headspace、Broadhaven Ventures、Venture Founders、そして既存投資家からAugmentum Fintech、Taavet Hinrikus of TransferWise、Kindred Capitalが参加した。シリーズAラウンドは2019年1月に1000万ドル(約11億円)でクローズし、今回のラウンドも含めFarewillの累計調達額は3000万ポンド(約40億円)になった。
Farewillは現在英国でのみサービスを展開しているが、長期的には英国外にも進出する計画だ。大学の友人で現在CTO兼CPOのTom Rogers(トム・ロジャーズ)氏と共同で創業したギャレット氏は、「Farewillがサービスを提供してきたこの5年で、同社はホームマーケットの英国で最大の遺言書作成者になった」と話す。かなり断片化しているマーケットにおいて、Farewillは遺言書10件につき1件を作成していて、マーケットシェアは10%だ。
火葬による葬儀と遺言検認サービスの提供開始は比較的最近で、2019年12月からだ。だが、ロックダウンやソーシャル・ディスタンシング、そして悲しいことに死の増加のために、Farewillはこのところ忙しかった。
Farewillの火葬サービスは、火葬のオーダーや他の詳細などすべてオンラインで行われ、費用は平均して典型的な葬儀の5分の1だとギャレット氏は話した。従来の葬儀にあるオプションを回避し、家族は一連のプロセスのあとにどのように追悼するかを選べる。Farewillはいま、英国で3番目か4番目に大きい火葬プロバイダーとなっている。しかし、最近の数カ月が全てではない。Farewillの売上高は昨年(つまり新型コロナ前)800%成長した、とギャレット氏は付け加えた。
死をデザインする
死がほとんどの人にとって簡単なテーマではないように、スタートアップにとっても「ディスラプト」するのが複雑なものでもある。そうした意味でFarewill創業のきっかけは興味深い。
オックスフォード大学でエンジニアリングを学んだギャレット氏は「大学院生としてデザインとイノベーションについてインペリアル・カレッジ・ロンドンとロイヤル・カレッジ・オブ・アートでの共同学位取得に取り組んでいたときにアイデアが浮かんだ」と話した。
Airbnbのような企業にインスパイアされ、多くの大きなアイデアが浮かんだ。「『デザイン主導の企業にとって多くの可能性がある』と当時考えていた」と同氏は述べた。
「コースコーホートが与えられた権限の1つが、加齢とそれを解決するサービスの幅広いコンセプトを考えることだった」とギャレット氏は話した。コースの一環として彼は日本に旅行した。日本は加齢と死のプロセスに対し独特の尊厳を持つ。東京の高齢者施設で「民族誌学者と人類学者のチーム」と6カ月過ごしたそうだ。
そして彼は「予想もしていなかった知見を得た」と振り返る。「『6カ月の滞在の最後に、デザイナーとしての私の役割は失敗する』と感じた」と話した。「我々がフォーカスしたのは加齢が表面的であるということだ。高齢者が動き回りやすいようにいかに使い勝手の良いスプーンやフォーク類、ベッド、座席を作れるか。モビリティと物理面がすべてだ。しかし我々が口にしなかったのは、こうした人々の大半が死に直面しているということだった。ケアホームでは友人も家族も身近にいない」。
言い換えると、物理的なディテールや人生をより管理可能なものにしたり楽しいものにしたりするのは構わない。しかしそれらは問題の核心だとは彼は感じなかった。
「もしあなたがデザイナーなら、あなたの責任は問題がなんであれ見極めることだ」とギャレット氏は話した。認知症ケアについての彼の学位論文は、フォークやスプーンなどのカトラリー自体についてではなく、人中心のアプローチについて問題を提起した。「その大半は身体の改善であって、心理的な面ではない」。
そして英国に戻ってから、ギャレット氏は「死の産業」と形容するものを理解しようと取り組み始めた。彼は「ミステリー・ショッピング」(これも彼の表現だ)に2カ月費やした。葬儀ディレクターへの定期的な訪問だ。彼は、実際の葬儀をアレンジするために人々が経験するプロセスを理解しようと、死について議論するために足を運んだ。彼は20回ほど訪問したそうだ。筆者が少し驚いたことを受け、この数字を伝えることについて彼は考え直したと想像する。私の反応に対し「彼らの時間の多くを無駄にしていないことを確認した」と述べた。
なお、ギャレット氏とFarewillが取り組み全体を通じて透明性のある道徳的なアプローチを具現化しようと試みたことをここで言及しておく。このアプローチには、遺言の中で遺産の寄付を明確に示しやすくすることが含まれる。目的は2023年までに遺産の寄付額を10億ポンド(約1350億円)にすることだ。これまでに2億ポンド=270億円=超を集め、数字は加速度的に大きくなっている。
ギャレット氏はその後、遺書作成の資格を取り、遺言検認で助けを必要としている友達に無料でサービスの提供を始めた。遺言検認には相続税の処理、身の回り品や不動産の整理などが含まれる。「そうした実践体験は構築したいものを確かめるのに重要だった」と彼は述べた。
「私は3つの修士学位を持っているが、実際に何かをしなければ学べない」と語った。ギャレット氏が行き着いた大きな1つの結論は、死に関する産業は大きく、複雑であるということだ。それはテーマのせいだけではなく、テクニカルなイノベーションがまったくなかったためだ。
「死への対応に深遠な人間の嫌悪があり、それは立派なデザインの課題だ」と話した。実際のところ、好むと好まざるとにかかわらず、死は常に身の回りにあり、おそらく今は特にそうだろう。
死関連のサービスに特化したスタートアップを多く抱える米国では、遺書作成の企業は過去数カ月、かなりの依頼を受けた(CNBC記事)。経済が減速しているにもかかわらず、遺書作成を含まない死後のすべてに対処するデスケアサービスのマーケットは、新型コロナの影響で今年はグローバルで1020億ドル(約11兆円)に成長すると予想(BusinessWire記事)されている。数字はそんなものだが、Farewillがやっていることは投資家を引きつけた。
「愛する人を失って嘆いている人のためにその後の手続きの苦痛を完全に取り除くことはどうだろう? 手ごろな価格で面倒ではない、思いやりのあるサービスは?それが、同情、そしてテックを活用した効率性という異例のブレンドによってFarewillのチームがやっていることだ」とHighland EuropeのパートナーであるStan Laurent(スタン・ローラン)氏は声明で述べた。「長い間、遺書と葬儀の産業は主に利益に連動してきた。ダンと出会って以来、Farewillがこの業界を激しくディスラプトする材料を持っていることはわかっていた。野心を広めようとする彼らをサポートできることをうれしく思う」。
「Farewillは18カ月前の最初の投資以来、著しく発展した」とAugmentum FintechのCEOであるTim Levene(ティム・ルビーン)氏は声明で述べた。「彼らは10倍成長し、一連の新しいプロダクトを立ち上げた。今回の追加資金は古めかしいな産業を刷新し、デスサービスにおいて先頭をいくデジタルプラットフォームになる機会をFarewillに提供する」。
Farewillはこのほど、ソーシャルイノベーションへの貢献で、ヨーロッパのテック系スタートアップが集うEuropa 2020のHottest Social Innovation賞を受賞(Europa 2020サイト)した。
画像クレジット: Ashley van Haeften / Flickr under a CC BY 2.0 license.
[原文へ](翻訳:Mizoguchi)
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