社会的影響のあるスタートアップを立ち上げた創設者からの5つの教訓
AI.
編集部注:Shannon Farley(シャノン・ファーレイ)氏は、社会的影響のあるスタートアップのためのテックアクセラレーターであるFast Forward(ファストフォワード)の共同創設者兼エグゼクティブディレクターである。
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ヘルスケアから教育、人権にいたるまで、テクノロジーは社会に大きな影響をもたらす可能性を秘めている。世界的なパンデミック、経済不安の増加、人種的不公平に対する暴動が入り組む現在、スケーラブルなソリューションの必要性がかつてないほどに高まっている。しかし、世の中の創設者らが苦労しながらも繰り返し多くの教訓を学んできたのを我々は目の当たりにしてきた。
大規模な影響をより迅速に実現するという精神のもと、世界を変えるためのアイデアをテクノロジー関連の非営利団体へと飛躍させたいと望む読者が心に留めておくべき教訓トップ5をまとめてみた。社会的影響をもたらすスタートアップ立ち上げのための無料ガイド、Tech Nonprofit Playbookから、業界を刷新したテクノロジー系非営利団体の教訓を集めた。
1. 問題を詳しく把握する
あなたには壮大なアイデアがある。どうしても解決したい社会問題があり、世界を変えるテクノロジー主導のソリューションを考えついたかもしれないと思っている。しかし、あなたが変化をもたらしたいと思っているコミュニティを深く理解せずには、その問題を解決することはできない。コミュニティを深く理解しなければ試みは失敗に終わってしまうだろう。コミュニティの状況を自分で完全に理解できていない場合は、理解ができている共同創設者と手を組む必要がある。次に、問題を直接体験した人々に会いに行くこと。ユーザーの立場からの視点を持って人々にインタビューを行い、彼らが抱える問題の本質を理解するための機会を得るべきなのである。
これを実際に実践したUpsolve(アップソルブ)の例を見てほしい。これはアメリカでの税金申告に利用されるTurboTax(ターボタックス)のようなソフトウェアパッケージで、連邦倒産法第7章に基づく倒産処理手続きのために使用されるサービスだ。債務を抱えた低所得のアメリカ人が深刻な危機から立ち直るのを支援するためのものである。ユーザー調査の段階で、共同創設者らは実際に法的援助組織に足を運んで支援を待つ人々が記載された待機リストを求め、また債務訴訟の支援を行う法的援助団体で支援を求めに来ていた人々に名刺を配った。この戦略によりUpsolveは幅広い視点のサンプルを検討し、ユーザーの視点から問題を深く理解できるようになったのだ。このプロセスを決して軽視してはいけない。ユーザー調査は最初に描いた製品アイデアにさらなるインスピレーションを与えてくれるものなのである。
2. ゼロから始めることなく優れた製品の技術を構築する
次は、実用最小限の製品(MVP)をパイロット運用することで製品のアイデアをテストする必要がある。MVPとはユーザーについての学びを、少ない努力で表面化させるための製品の初期バージョンである。MVPは完全に出来上がった製品である必要はない。Upsolveの場合、ユーザーが実際に破産申請するのを助ける物理的なスペースでパイロットが行われた。MVPの小規模なパイロット運用を実行して、仮説を確認、却下、または変更する。MVPを十分な期間試用して、それが実用的なソリューションであると確信できるようになったら、次はベータ版を作成する段階だ。
ベータ版製品、またはほぼすぐにリリースできる製品を構築するためには、既存の技術ソリューションを活用して新しいユースケースに対応したい。ゼロから作り上げるべきではない。Upsolveの場合は、オンラインプラグアンドプレイのTypeformを使用している。ウェブサイトやコミュニケーションツールなどのあまり技術的ではない製品から、アプリ開発ツール、データベース、APIなどのより技術的な製品まで、既存の技術構成要素をつなぎ合わせることにより初期費用が削減され、最終的には製品のメンテナンスも容易になる。ソリューションを世界中に公開し、テスト、改良を繰り返し続けながらユーザーのフィードバックを製品に組み込み、ミッションの実現をより確実なものにしていくのだ。
3. 非営利柔道の極意を学ぶ
テクノロジー系非営利団体には、非営利団体ならではユニークなアドバンテージがある。これを我々は非営利柔道と呼ぶことにしている。非営利柔道において重要な戦術は、他の組織、資金提供者、企業との提携を築き、テクノロジー系非営利団体の持続可能性とユーザー獲得を促進するため、相互に有益な関係を構築することである。
十分なサービスを受けられていない何百万人もの若者に、キャリアアドバイスをクラウドソーシングで提供するCareerVillage.orgを見てほしい。創設チームは最初の数年間、ボランティアの募集と資金調達に多くの時間を要していた。しかし、フォーチュン500企業が従業員のための簡単でスケーラブルなボランティアプログラムを探していると知り、それが解決策となった。CareerVillage.orgは、企業従業員のボランティア活動を中心とした持続可能な「サービス提供により収入を得る」収益モデルを構築したのだ。
この非営利柔道は組織の急速な成長の主要な推進力になっている。Tech Nonprofit Playbookは、非営利団体が活用できるより戦略的な利点を掘り下げ、非営利柔道の実例を紹介している。困難な道のりを想定してテクノロジー系非営利の旅に出るのではなく、Tech Nonprofit Playbookが紹介している特殊なチャンスを利用してシナリオを好転させれば良いのだ。
4. パートナーや従業員が組織のあり方を左右する
使命を達成するためには、あなたの大義を信じ、あなたがそこへたどり着くのを助けることができる人々を見つける必要がある。
最も重要なのは、技術的エキスパートまたは問題のエキスパートのどちらかで、自分を補完してくれる共同創設者を早い段階で見つけることである。共同創設者はお互いのギャップを埋め、作業を分散させ、チームの強力な基盤を構築してくれる存在である。
次に、事業の構築と拡大をサポートできる有能で使命を重視する人々(実際に存在する!)を採用することが重要だ。雇用のための資金を手に入れたとしても、出来る限り多くの人材を採用すれば良いというわけではない。これは学生向けの無料読書プラットフォーム、CommonLitが苦労して学んだ教訓である。400万ドル(約4億2000万円)の助成金を獲得した後、創設者のMichelle Brown(ミシェル・ブラウン)氏はたった40日間で15人を採用した。しかしブラウン氏はその後、個人を雇うのではなく、チームを雇わなければいけないことに気づく。組織に力を注ぐ個々の人々が、その後の組織のあり方を決定するのだ。賢く採用を行う必要がある。
5. どのように影響を測定するかついて目的意識を持つ
影響こそがテクノロジー系非営利団体の真の目標である。違いを生み出そうとする前に、「誰」「なぜ」、またはサービス提供上の倫理を理解する必要がある。Medic Mobile(メディックモバイル)の創設者Josh Nesbit(ジョッシュ・ネスビット)氏が共有するフレームワークであるサービス提供倫理は、誰を助けたいのか、そしてなぜ彼らが他の誰よりもあなたの助けを必要とするのかを決定することが倫理的な立ち位置を決定し、組織として行うすべてに影響を与えるという概念である。
ネスビット氏がMedic Mobileを設立した当時、同組織は現場の組織と協力して医療ツールを実装していた。その際に、彼はすでに人的および経済的資本を持っていたローカルパートナーにツールを提供していたのである。ネスビット氏はこのフレームワークが彼のモラルを反映したものではないということに気が付く。同氏は医療へのアクセスが最も少ない人々を助けたいと考えていたからだ。こう気付いたことで、同氏は組織に再び焦点を当て、最も必要としている人々にサービスを提供するために製品ビジョンを再定義することができたのだ。それ以来Medic Mobileは、コミュニティの医療従事者の分散型ネットワークによって誰一人取り残さないヘルスケアを効果的に提供できるようにするオープンソースツールを構築している。そして昨年、Medic Mobileは2万7477人の医療従事者のグローバルネットワークをサポートし、コミュニティに1100万件以上のサービスを提供することにより、大きな影響をもたらしたのだ。
組織の成長が進むにつれ、自らの与える影響をどのように測定するかについて目的意識を持つべきである。影響測定は、実際の作業と世界に向けて創造したい価値を連携させることにより組織の構造を決定付けるものだ。これは、提供するサービスがミッションを満たすものであるようにするだけでなく、資金やパートナーシップを通じて取り組みへのサポートを高めるのに役立つ重要な行為なのである。
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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラム
[原文へ](翻訳:Dragonfly)
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