ECの発展には「偶発的消費」が必要 台湾発AIテックawoo Japanが巻き起こそうとしていること
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台湾発のAIテック系スタートアップ企業awoo Japan(アウージャパン)が今夏、日本に本格進出を果たした。彼らは「偶発的消費」という新たな体験価値をEコマースに取り入れ、オンライン上の買い物体験をアップデートすることを標榜している。彼らがなぜ台湾から日本に進出したのか。また、偶発的消費とは何なのか。なぜ重要なのか。同社のVPoBD 執行役員である吉澤和之氏による寄稿から、セレンディピティの国、台湾から生まれた新しいマーケティングトレンドの姿を追う。
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知られざる台湾ITの実力 アメリカとの戦略的パートナーシップ
まずは、台湾がいかにITやAIといった産業に力を入れているか説明したい。もし読者のみなさまが台湾と聞いて、「タピオカミルクティー」しか思い浮かべなかったら、それは誤りだ。台湾でのIT産業は目覚ましい進化を遂げており、その実力を認識していないことは、グローバル競争から身を引くのと同じである。
台湾におけるITの歴史は1980年代までさかのぼる。インターネット産業が世界中で盛んになり、情報のデジタル化が進むなか、台湾はあらゆるIT機器の生産集積拠点となり、半導体産業を拡大させていった。年々産業は成長し続け、2019年には半導体生産能力ランキングで台湾は世界1位の座を獲得している。基礎体力を身につけた台湾は、半導体だけでなくさまざまなハイテク技術に領域を伸ばし、技術力にさらに磨きをかけていった。
この勢いは、現在の蔡政権においてより顕著になり、経済政策の目玉である「新南向政策」を中心に、IT産業への投資・輸出を強化・積極化させている。同時にアメリカとの戦略的パートナーシップを強化させ、シリコンバレーとの関係性も深くしていく。こうした徹底したグローバル戦略が実を結び、「半導体の台湾」から「IoTなどのセンシング技術やハイテク産業の台湾」へと進化し、テクノロジー分野における有力なサプライチェーンとして、台湾のポジションはより強固になっていった。
人工知能投資の加速 コロナ禍の2020年でさえGDP前年比1.56%増
なかでも人工知能(AI)に対しては国をあげて本格的に投資を重ねている。世界をリードする国に生まれ変わるためには、ハードウェアの製造拠点としてだけでなく、ソフトウェア部門でもナンバーワンを目指す必要があると踏んだのだろう。つい最近も、台湾経済省は20年6月、13億米ドル以上の研究開発投資を外資ハイテク企業に対して呼び込み、6300人以上の雇用を生み出す計画を発表した(参考:https://www.newsweekjapan.jp/headlines/business/2020/06/278850.php)。
このように政府自らが投資を重ねた結果、事実、多くのIT企業が台湾にAI研究部門を設置するようになった。今ではグーグル、マイクロソフト、アマゾン、IBMなど、多くの米テクノロジー企業が台湾に熱を入れる。例えばグーグルが2019年に発表した計画によると、台湾で5000人規模の学生に対して人工知能の教育を提供すると明かしている。また、従業員も倍に増やし、AIの取り組みを強化する。マイクロソフトやIBMも人工知能に関する研究開発部門を増強した。アマゾンにおいては、台湾通信最大手の中華通信と提携してAI分野のベンチャー支援計画を発表。政府自身も、2019年、広さ12万平米以上のAIビジネス拠点「新竹県国際AI智慧園区」を建設するという計画を掲げ、多くのAI企業同士のエコシステム構築と人材の雇用を生み出そうとしている。
いまや、「世界デジタル競争力ランキング」において、台湾は13位と健闘(ちなみに日本は23位と遅れをとっている)。また、マイクロソフトでAI部門の責任者を務めた杜奕瑾(トゥ・イーチン)率いるプロジェクトでは、「アジア・シリコンバレー計画」という壮大なプランも用意されている。次々に多様な政策を生み出し、矢継ぎ早に投資を重ねている姿からは、その本気度が伺える。新型コロナウイルスの感染拡大を抑えた台湾。2020年のGDPも前年比1.56%増と、プラス成長の予測を立てている。この成長推移をうまく保つことができれば、おそらく競争力はさらに増幅するだろう。
シリコンバレーから最も高額の資金調達をしたawoo
そして、この台湾における人工知能狂騒曲の渦中において、いま台湾内で注目を集めるスタートアップ企業がある。それが筆者が勤めるawoo(アウー)だ。
awooは、台湾政府のIT顧問も経験しているCEOの林思吾氏が2015年に創業したMarTechカンパニーである。結論からいうと、awooは台湾におけるMarTech系スタートアップ企業のなかで、「シリコンバレーから最も高額の資金調達を獲得した企業」であり、一気に台湾国内で知名度をあげ、成長有望株の企業として名乗りを上げられた。ここからは、awooの成長の経緯を紹介していく。
もともとawooはSEOの会社として始まった。そして2017年にSEO向けのSaaSツールをリリースしたところ、わずか1年で10,000を超えるユーザーを獲得した。ここからawooはすさまじい速度で成長していった。2019年には台湾のメールマーケティングの第一人者である李振瑋氏を迎え、メール配信ツールをリリース。すると瞬く間に台湾EC市場においてシェアNo.1を獲得。わずか3年足らずで最も成長の早いMarTechカンパニーになった。そして同時に、調達した資金をもとに、awooは次のフェーズに向かって着々と準備をし始めていた。それは、台湾内の優秀なAI科学者を多数採用し、人工知能ラボを設立したのだ。彼らを中心に、人工知能ベースのまったく新しいマーケティングプラットフォーム「nununi」(ヌヌニ)を開発した。また、グローバル進出を目論み、awoo Japanを2018年に設立し、2020年夏、本格的な日本市場進出を果たした。いまでは日本がHQとなっている。
いまや、台湾の人工知能業界において、awooを知らない人はいないと言えるほど成長した。現にawooは今年の9月、台湾最大のMarTechカンファレンスを開催。そこにはグーグルやFacebookなど、多くのIT企業が登壇者として名を連ねる。注目すべき台湾AIテックの企業の一員として、MarTechの代表企業として、awooは次に世界を目指す計画だ。その最初のステップに、日本を選んだというわけだ。
偶発的消費とは何か
awooが開発した「nununi」は、小売業Eコマースを対象としたマーケティングプラットフォームだ。これは、小売業Eコマースが抱える売上拡大・カスタマーエンゲージメント向上・運用効率化といったあらゆる課題を一気に解決することができる人工知能技術だ。nununiを使えば、消費者の買い物体験はより豊かになり、「偶発的消費」を誘発させられる。具体的な仕組みについては、サービスサイトを見ていただきたい。
ここでおそらく聞きなれない言葉を目にしただろう。awooが掲げる「偶発的消費」とは何か。
偶発的消費とは「偶然おもしろいと感じるものを発見することを望む消費行動」である。つまり、「思いがけない商品に出会う体験」だ。そもそも消費には3つの形態があるとされている。ひとつは、買うものが決まっていたりこだわりを持っていたりする場合の「自律的消費」(=能動消費)。ふたつめは、店員におすすめされて買うというように、消費するものを他人に任せる「他律的消費」(=受動消費)。そして3つめがこの偶発的消費だ。詳しくは消費者庁のサイトに掲載されているので参考にしてほしい(こちらから)。
誰しもそうした偶発的な出会いは経験したことがないだろうか。自分の趣味や嗜好の領域とはまったくかけ離れた領域にも関わらず、思わずその商品に見とれてしまい、買ってしまったという経験だ。実は今のEコマースには、この偶発的消費の性質が薄いという欠点がある。なぜなら、デジタルマーケティングのトレンドが、パーソナライゼーションに向かっているからである。もちろんそれを否定することではない。データに基づいて、ユーザーごとに的確なアプローチをすること自体は効果がある。しかし、それにとらわれ過ぎると、過度なパーソナライゼーションが行われ、個々の趣味嗜好の範囲から脱することができなくなるのだ。偶発性とパーソナライゼーションは両極的なのである。
人は予想もしないものと出会いたいというマインドを持つ生き物だ。だから見知らぬ国に旅をして違う世界を見たいと思う。思わぬ発見、というのは「自分が認識している趣味や嗜好性の範囲外」に存在する。その発見をすることがすなわち偶発性であり、パーソナライゼーションの行き着く先には存在しないのだ。
現代のEコマースは、能動消費と受動消費によって構成されている。カテゴリー検索、指名検索、条件検索、レコメンデーションなど、鉄板の機能はいくつかあるが、いずれもそのふたつの消費形態を軸にしているはずだ。だから、個人的な感想を込めると、いささか機械的な感が否めない。もっと、スーパーやショッピングモールのようなリアルの場で経験するような、「ぷらぷらと商品を手にとって見て回る」という体験が薄い。そこには偶発性という概念が薄いからだ。
実はいま、ネットフリックスやアマゾン、グーグルなどは「偶発性」の研究に多額の資金を注入していると噂されている。人工知能の用語でいうと、「ゆらぎ」というものだ。いかに消費者の消費マインドをくすぶれるか、いかに自分の趣味嗜好の範囲外へと誘うことができるか。それを実現するには、偶発的な出会いというのは重要なキーワードなのだ。
偶発的消費をEコマースに取り入れることができれば、デジタル上での買い物体験はより質の高いものになっていくはずである。特にコロナ禍によって外出が制限されている時期、なかなか外に出られないといったストレスを抱えている人にとって、Eコマースは無くてはならない存在だ。Eコマースの利便性を上げることも重要だが、偶発的な出会いの確率を上げ、デジタル上でもワクワクした買い物体験ができることは、ブランドと消費者をより身近な存在へと変えていくだろう。
セレンディピティの国、台湾
台湾の人々は、新しいもの好きであり、いろんな出会いを大切にする文化である。それに加え、台湾ではアジア特有の雑多な街並みの雰囲気を感じることができる。この文化的特質は、時にセレンディピティを誘発する原動力になる。初のトランスジェンダー閣僚であるオードリータン氏の例でもわかるように、ダイバーシティに対しても寛容的であり、この非同期的な集合体が偶発性を生み出す。awoo Japanがnununiを通して目指す世界も、そうしたセレンディピティの形態である。偶発的消費とは、そうした概念を「消費」という活動に転化しただけに過ぎない。
デジタルマーケティング、Eコマース、そして小売業界にとって新たなトレンドとなるであろう偶発的消費の可能性を感じていたけただろうか。この3つめの新たな消費形態を、デジタルの世界でも再現していくことは、awoo Japanとしての使命だと考えている。
引用先はこちら:ECの発展には「偶発的消費」が必要 台湾発AIテックawoo Japanが巻き起こそうとしていること