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視覚障がい者がバーチャルイベントに参加することを想像し、あなたが主催する次のイベントでその想像を実践しよう
AI.

視覚障がい者が参加するバーチャルイベントをアクセシブルにするにはどうすればいいだろうか?

2020年6月にSight Tech Globalの準備を始めたとき、その答えはすぐに見つかるだろうと私は自信を持っていた。主催者が利用できるバーチャルイベントのプラットフォームやオンラインチケットの選択肢はたくさんあり、スクリーンリーダーや何らかのデバイスでウェブを操作する利用者に対するアクセシビリティの妥当な基準を満たすものが1つぐらいはあるはずだと考えていた。

残念ながら、私の考えは間違っていた。デューデリジェンスとしてさまざまなプラットフォームのCEOたちと話をする中で「我が社はWCAG(ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン)の要件を勉強中なんです」とか「時間のあるときに開発チームがフロントエンドのコードを書き直す予定です」という発言を何度も聞いた。つまり彼らは、そしてウェブ運営事業者の多くも、サービス開始時にはアクセシビリティに配慮してサイトをコーディングする手間をかけていない。アクセシビリティに配慮したコーディングは費用もかからず公正なアプローチであり、ADA(Americans with Disabilities Act、障がいを持つアメリカ人法)準拠であることはいうまでもない。

このことに気づいて大きな暗雲が立ち込めた。イベントの日付はすでに2020年12月2日〜3日と発表しており、もう引き返せない。デザイナーのDmitry Paperny(ディミトリー・ペイパニー)と私が解決策を見つける時間は限られていた。日程も重要だが、視覚障がい者のコミュニティを中心としたイベントであることを考えれば、視覚障がい者にとってイベントのバーチャル体験がうまく機能することも重要で不可欠だった。

我々はバーチャルイベント体験をオッカムの剃刀、つまり必要以上に多くを仮定せずシンプルな解決法で考えて、重要な問題の答えを探すことにした。重要な問題とは「何が不可欠か?」だ。バーチャルイベントのプラットフォームはたいてい機能が多く、アクセシビリティの問題が発生しやすい。我々にとって本当に必要なことを順位付けした結果、以下の3つにまとまった。

  • 「メインステージ」イベントのためのライブストリーミングビデオ
  • 操作しやすくインタラクティブなアジェンダ
  • ブレイクアウトセッション(分科会)に使用するインタラクティブなビデオ

ソーシャル、あるいはネットワーキングの要素を入れるかどうかも話し合い、簡単で圧倒的なソリューションが見つからない限りはオプションとすることにした。

次の問題は「どのツールを使うか?」だ。とても良いニュースは、YouTubeとZoomはアクセシビリティの点で優れているということだった。視覚障がい者はYouTubeにもZoomにも慣れていて、プレイヤーを操作するためのキーボードコマンドを知っている人が多い。我々は最初に口コミでこのことを知り、その後YouTubeとZoomにサポートのドキュメントが大量にあることを知った。そこでメインステージのプログラムをYouTubeで、ブレイクアウトをZoomで実施することにした。YouTubeとZoomならもちろんウェブサイトとの統合が極めて簡単なので、そのようにする計画を立てた。

次は「エクスペリエンス全体をどこでホストするか」という問題だ。我々はイベントの参加者を1つのURLに誘導したいと考えていた。幸い、アクセシブルなウェブサイトはイベントの告知用としてすでにある。ディミトリーはこのサイトのデザインとコーディングを通じて、全盲とロービジョンの両方のユーザーを考慮する重要性など多くのことを学んでいた。そこで我々は他社のイベントプラットフォームを使うのではなく、このサイト自体にイベントのエクスペリエンスを組み込むことにした。サイトのナビゲーションに「イベント」(現在はすでに非公開)と「アジェンダ」を追加することにしたのだ。

最初の(WordPress用語でいうところの)「ページ」にはYouTubeのライブプレイヤーが埋め込まれ、その下に現在のセッションと今後のセッションを説明するテキストがあり、アジェンダ全体へのリンクを目立つように配置した。なぜアジェンダを別のページにしたのかと思う人もいるかもしれない。それでは余計に複雑になるのではないか、と。それは良い質問だ。我々は障がい者のユーザビリティテストを専門とするパートナーのFableから多くの発見を得たが、アジェンダを別ページにしたのはその発見の1つだ。先ほどの質問の答えは、目で見るのではなくスクリーンリーダーでの操作を想像すればわかる。このように想像すれば答えが見つかることは何度もあった。もしアジェンダがYouTubeのプレイヤーの下にあったら、耳障りなことが起きてしまう。配信されているプログラムの内容を聴きながら、同時にその下にあるアジェンダを「読む」(すなわち「聴く」)ことを想像して欲しい。アジェンダのページを分ける方が適切だ。

アジェンダのページは最大の難関だった。情報量が多くフィルタも必要で、イベント期間中は「現在配信中」「これから配信」「終了」と複数のステータスがあるからだ。ディミトリーは絞り込みのためのドロップダウンやアジェンダのページを操作しやすくするための詳細を学び、我々はFableの専門家とともに何度も確認した。さらに、かなり珍しい段階を踏むことにした。参加登録をした視覚障がい者をイベント本番数日前の「練習用イベント」に招待し、フィードバックをお願いしたのだ。200人近くの人が2つのセッションを視聴した。FableのSam Proulx(サム・プルークス)氏やFacebookのMatt King(マット・キング)氏など視覚に障がいがあるスクリーンリーダーの専門家にも依頼して、質問に答えたりフィードバックをまとめたりしてもらった。

主なスクリーンリーダーが3種類あることに注意しなくてはならない。Windowsユーザーが主に使っているJAWS、Apple製品で使われるVoiceOver、オープンソースでMicrosoft Windows 7 SP1以降が動作するPCで使えるNVDAだ。この3種類の動作は同じではなく、それぞれのユーザーにはキーボードのコマンドをたくさん知っている熟練者から、たまに使う程度で基本的なスキルだけを習得している人まで、さまざまな人がいる。したがって、単なる不満と有用な提案を切り分ける専門家の存在は本当に重要だ。

テストでは自由参加形式のセッション1セッション2をZoomミーティングで実施した。これに関してはイベントの簡単な説明と動作を紹介しておいた。そしてイベントページ(YouTubeのプレイヤーが動作しているページ)とアジェンダのページへのリンクを設置し、テスト参加者にこのリンクを試してからZoomのセッションに戻ってフィードバックして欲しいと依頼した。ほかの部分でもそうだったが、ここでも結果は散々だった。基本的なところはできていたが、「聴く」だけの人と「見る」人がアジェンダの項目に関する情報を知るにはどうするのが最も良いかなど、微妙なところを見落としていた。幸いなことに、本番前にアジェンダのページを微調整する時間はあった。

練習用のセッションを実施したことにより、スクリーンリーダーの使用にあまり慣れていない参加者を支援するためにイベント期間中にライブのカスタマーサポートを提供しようという方針を決めることもできた。我々はBe My Eyesと連携することにした。Be My Eyesは視覚障がい者と晴眼者の支援者をつなぐモバイルアプリで、視覚障がい者は自分のスマートフォンのカメラで知りたいことを映し、それを晴眼者が見て情報を伝える。友人に肩越しに見てもらうような感じだ。我々は10人のボランティアを確保し、イベントに関する質問に答えられるようにトレーニングを実施した。Be My EyesはSight Tech Globalを「イベント」セクションに表示し、これに関するコールをボランティアに優先的に回した。Sight Tech Globalのホストを務めた素晴らしい人物であるWill Butler(ウィル・バトラー)氏はたまたまBe My Eyesのバイスプレジデントで、バーチャルエクスペリエンスに関して手助けが必要ならBe My Eyesを利用するようにと定期的に参加者に呼びかけてくれた。

イベントの1カ月前になり、我々はソーシャルでやりとりする機能を追加しても問題ないと確信した。Slidoの基本的なQ&A機能がスクリーンリーダーとの相性が良いという噂があり、実際にFableは自社のプロジェクトでSlidoのサービスを使っていた。そこで我々はSlidoをプログラムに追加した。YouTubeのプレイヤーの下にSlidoのウィジェットを埋め込めば晴眼者の参加者にとっては都合が良いがそのようにはせず、アジェンダの各セッションにスタンドアローンのSlidoページへのリンクを追加した。参加者はアジェンダやライブストリーミングと混乱することなくSlidoのページでコメントや質問を書き込むことができる。このソリューションはうまくいき、イベント期間中に750件以上のコメントや質問がSlidoに書き込まれた。

準備万端でついに12月2日を迎えた。しかし十分に計画しても往々にして計画倒れになるものだ。開始数分後にライブのクローズドキャプションが壊れてしまった。聴覚障がいの参加者のために、クローズドキャプションを再開できるまでイベントを中断することにした。苦労の末に、キャプションは復活した(キャプションの詳細は後述する)。

キャプションのトラブルを除けば、イベントはプログラムの観点からもアクセシビリティの点でもうまくいった。成果はどうだったかをお伝えしよう。2400人以上の参加登録者のうち45%はスクリーンリーダーを使う予定だと回答していた。イベント直後にスクリーンリーダー利用予定者を対象にアンケートを実施したところ95人から回答があり、エクスペリエンスは5点満点で4.6点だった。プログラムに関しては全参加者対象のアンケートで157件の回答があり、5点満点で4.7点だった。もちろん、我々はこの結果にたいへん喜んでいる。

問題点の1つは参加登録だった。当初、あるイベント申込プラットフォームがアクセシビリティの点で「優れている」と聞いていた。我々はそれを額面通りに受け取ったが、それが間違いだった。我々はテストをすべきだったのだ。登録しようとした人たちからのコメントや視覚障がい者からの申し込みが少なかったことから、その申し込みサイトは他のサイトよりは良かったかもしれないがやはり期待外れだったことが数週間後に判明した。たとえばある登壇者からの指摘で、画像にaltタグが付いていない(追加する方法もない)、そしてスクリーンリーダー利用者は「登録」などのリンクにたどり着くために山ほどの情報をタブで飛ばさなくてはならないとわかり、つらかった。

ウェブサイトのアプローチと同じようにシンプルにするのが最も良いと判断し、参加登録方法としてGoogleフォームを追加した。Googleフォームはアクセシビリティに優れている。参加登録者数、特に視覚障がい者の登録がすぐに激増した。最初に選んだ申し込み方法は我々がまさに参加して欲しいと思っていた人たちを除外していたのだと認識し、悔しい思いをした。

イベント参加費用が無料だったから、Googleフォームを使うことができた。参加費用を徴収するつもりだったら、Googleフォームを選ぶことはできなかった。なぜ我々は全参加者を無料にしたのか。それにはいくつかの理由がある。まずこのイベントをグローバルなものにし、視覚障がいに関心を持つすべての人が簡単に参加できるようにすることが我々の望みだったので、広く受け入れられる価格帯を設定することが難しかった。次に、支払いをしたりイベントにアクセスしたりするための「ログイン」機能を追加するとアクセシビリティの点で難しいことになりそうだった。我々は、アジェンダやイベントページへのリンクを知っていれば誰でもログインや登録を求められることなく参加できるようにするアプローチをとった。この方法だとイベント参加者の把握に抜けが生じることはわかっていた。実際、参加者数は登録者数より30%多かったため、かなりの抜けがあった。しかしイベントの性質を考えると、アクセシビリティ上の利点があるなら参加者の名前やメールアドレスを把握できないことは許容できた。

この経験から大切な教訓を得たとしたら、それはシンプルなことだ。イベント主催者はエクスペリエンスがアクセシブルかどうかを真剣に追求しなくてはならない。YouTubeやZoomのようにコミュニティ内ですば抜けた評判を得ているのでない限り、プラットフォームやテクノロジーベンダーを信用するだけでは不十分だ。サイトやプラットフォームが適切にコーディングされているかどうか(WCAGの基準に沿っているか、GoogleのLightHouseのようなツールを使っているか)を確認することが重要だ。そして実際のテストで視覚に障がいのあるユーザーを現実に観察し、エクスペリエンスが適切であるかどうかを確かめることも重要だ。最終的には、これが最も重要である。

最後に触れておこう。このイベントでは視覚障がい者にとってのアクセシビリティの問題を取り上げたが、我々はキャプションによって恩恵を受けられる人たちのためにキャプションを付けると当初から約束していた。最高品質のキャプションを付けられるのは(AIではなく)人間と判断し、VITACの協力でライブのZoomとYouTubeのセッションにキャプションを付けた。また永続的に残る記録の一部となるオンデマンド版と文字起こしには3Play Mediaの協力を得た。点字リーダーの利用者が簡単にダウンロードできるようにマークアップのない「プレーンテキスト」版の文字起こしが欲しいという要望もあり、これも提供した。こうしたリソースはこのページのようにまとめられている。ページ上にこのセッションに関するすべての情報があり、アジェンダの関連セクションからこのページにリンクが張られている。

カテゴリー:イベント情報
タグ:アクセシビリティSight Tech Global

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(翻訳:Kaori Koyama)

引用先はこちら:視覚障がい者がバーチャルイベントに参加することを想像し、あなたが主催する次のイベントでその想像を実践しよう

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