投資テクノロジー:根強い富の格差を解消するための第一歩
AI.
著者紹介:Dean Sterrett(ディーン・ステレット)氏:LEX Markets(レックス・マーケッツ)の共同創業者兼COO、および製品部長。レックス・マーケッツでは、機関投資家や従来の投資家向けのマーケットプレイスで商用の不動産担保を扱う。
Philip Michael(フィリップ・マイケル)氏:NYCE Companies(NYCEカンパニー)のCEO。ニューヨーク州を拠点に、メディアやフィンテックの投資プラットフォームを展開。
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Robinhood(ロビンフッド)の創業者Vlad Tenev(ウラジミール・テネフ)氏は最近、ニューヨークタイムズ紙のインタビューに答え、若年層の米国人が株式市場に参入しなくなったことが「つまるところ社会で今見られている圧倒的な格差につながっている」と指摘した。
Thomas Piketty(トマ・ピケティ)氏は自著『The Economics of Inequality』(2015年)のなかで、投資資本の成長率がGDP(および1人当たりの平均収入)の成長率を上回ると収入の格差が広がると論じている。このことを考えると、テネフ氏の主張は的外れである。株式市場への参入は確かに富の形成には欠かせないが、そもそも資本を持っていなければ投資はできないからだ。
社会に根付いた格差に立ち向かうには、体系的な変化(手ごろな価格の医療サービス、職業訓練、賃金の引き上げ、インフラストラクチャの拡大、国政によるその他の取り組みなど)が必要だ。一方、フィンテック業界のイノベーションを活用すれば、ツールを提供して個人レベルの投資で富を築く機会を広げ、こうした政策を補うことができる。こうした進歩は、社会的な変化をもたらすだけの巨大勢力には取って代わらなくとも、個人が直面した障害を取り除く機会の1つにはなるだろう。
時代はフィンテック、そしてミレニアル世代の投資家へ
最近、仲介手数料無料の株式取引を巡って収益モデルの議論が起こっているが、フィンテックの投資アプリが登場したことにより、個人投資家が株式市場に参入する事例が大幅に増えてきた。特に多いのが、期待資産額の面で他の年齢層に後れを取っている若い投資家だ。
Acorns(エイコーンズ)、Public(パブリック)、ロビンフッドといった人気のフィンテックアプリのおかげで、株式市場への投資を検討し始めたミレニアル世代やZ世代の個人投資家にぴったりの隙間市場が生まれたのである。1月から4月にかけて、ロビンフッドの1社だけでも300万件の入金済み口座を獲得し、その平均年齢は31歳となっている。
同様の傾向は、従来個人投資家の手に及ばなかったさまざまな資産クラスについても見られている。例えばEY(アーンスト・アンド・ヤング)によると、2016年以降、不動産のクラウドファンディング投資額は倍増し、現在80億ドル (約8500億円) を上回っている。2018年には、米国における商用不動産の価値が約16兆ドル (約1700兆円) に達した。これは、同時期の米国における株式市場のおよそ半分の規模に当たる。
不動産は、富を築くうえで不可欠な資産クラスだ。実に、億万長者の約90%が不動産投資から財産を形成している。この背景として、不動産市場が極めて寡占的であることがいくらか関係していると考えられる。歴史的に見て、不動産市場に参入する機会は裕福な投資家に限られていた。
そこで、いくつかのフィンテック企業が不動産の世界に進出し、資産クラスの獲得機会を広げようと試みたが、この市場を本当の意味で小口投資家に開いた企業は現在に至るまでゼロである。
参入コストを削減
これはつまりどういう意味だろうか。不動産投資の機会さえ得れば誰もが億万長者になれるかというと、そうではないだろう。ただ、経済的に安定するうえで必要なツールや教育リソースを誰もが入手できる環境が整えば、富を築くチャンスは大いに高まる。
経済的な地盤を固めるには、金融リテラシーと機会の獲得が主なカギとなるのである。もう1つ重要な点は、低所得層に付きものの多くのコスト(「貧困税」とも呼ばれる)を排除することだ。
現在、業界全体で仲介手数料無料の取引が推進されているのも、フィンテック業界がこうした参入コストをなくそうとしているためである。10万ドルの取引で10ドルの仲介手数料が発生してもコストは微々たるものだが、100ドルの株式取得で発生した仲介手数料が10ドルであれば、取引コストを相殺するだけでも20%の利益が必要となってしまう。しかし、仲介手数料無料の株式モデルや分割所有の株式モデルは、不動産投資の市場では浸透していない。
従来の資産クラス全体のなかで、不動産はいまだ参入コストが高いままなのである。株式市場の機会は、小口投資家にも広がりつつある。仲介手数料無料および低コストの株式モデルには、この変化を反映させる最大の可能性が秘められている。
今後の動き
不動産とフィンテックが融合するのは時間の問題だ。
この分野は、テクノロジーによって大きな違いを生むことのできる分野の1つである。カリフォルニア大学バークレー校の調査によると、アルゴリズムを使用した融資などのフィンテックソリューションにより、今まで家の購入を難しくしていたハードルを下げることができる。
この調査では、社会に深く根付いた問題がある影響で、世界有数のフィンテック製品でも問題を完全には解決できないことが分かっている。それでも、率の不均衡を3分の1以上解消できるのである。
こうした企業が新たな投資機会を広げ、買い付けコストを削減していくなかで、一般的な米国人に富が分配されていく様子が見られると期待したい。株式投資の根底にある価値を作るのは、彼らなのである。
投資機会が歴史的に限られてきたほか、現在もその機会が欠如していることを鑑みると、財産形成のための新たなツールや金融リテラシー(テクノロジー搭載のうえ、ミレニアル世代にも受け入れられやすいアプローチで)を浸透させることで、参入ハードルの問題を解決し、より安定した投資の機会を拡大できると考えられる。
Stash(スタッシュ)、エイコーンズ、およびロビンフッドが全体で2400万人ものユーザー(その多くは重複)を抱えている今、テクノロジー対応の投資から人々の興味が離れることはない。例えば、エイコーンズの平均的な投資家は29歳で、年収は5万ドル (約530万円)だ。公認の投資家は最低年収が20万ドル(約2100万円)のため、従来の投資家像とはかけ離れている。
こうした新しい投資家が不動産やエネルギーといった代替資産の保有に乗り出したとしても、驚くべきではない。重要なのは、機会の獲得、サービス品質、教育、そしてユーザー体験である。
フィンテック業界の創業者は、自社製品で社会にどれほど好影響を与えられるか、過剰評価する傾向にある。我々は2人とも不動産フィンテック企業の創業者であるため、個人間のミクロなレベルで支援を行うことができると信じてはいるが、社会全体を本当の意味で豊かにするには、テクノロジー以外の分野で大規模な構造改革が必要だ。言うまでもなく、テクノロジーだけでは深く根付いた構造は変わらない。しかし、確実にさまざまな機会を広げることができるのが、テクノロジーの力である。
修正:この記事の修正前のバージョンでは、パンデミックの発生後、ロビンフッドで初心者の投資家が600万人増加したとの記載がありました。その後、広報担当者の方から連絡があり、「1月から4月にかけて、ロビンフッドの入金済み口座が300万件増加した」とご教示いただきました。
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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:コラム
[原文へ](翻訳:Dragonfly)
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